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邂 逅 ②
『彼らのために殴り付けていた、というのか……?』
底冷えするような美声に問いただされ、果穂は焦りまくっていた。
―― 先ほどの言い訳は、事実ではある。どんな方法であれ、霊は成仏させた方が皆のためにも本人のためにも、良い。
…… しかし、その心が違う。
果穂がこれまで人目につかないところで浮遊霊をぶっ飛ばしてきたのは、ボランティア精神などではなく純然たるストレス解消…… 誰も得しかしてないし良っか、的なナメた発想の元に行っていたことである。
そこを、見透かされて、叱られている気がした。
『本当か……?』
怖い。嘘は言ってないはずなのに、怖い。
隙を見て逃げ出したいが、身体に力が入らない…… 蛇に睨まれたカエル状態である。しかも、隙がない。
ここは、新たな選択をするしかないだろう。すなわち。
-- ひたすら謝って、謝って、謝りまくる。許してくれそうなら、それで良し。許してくれなければ…… 諦めて…… 唯一覚えてるお経の、般若心経でも唱えてみよう。
『本当に、そうなのか……?』
いつの間にか、じりじりと元・居酒屋の万年シャッターに追い詰められていたことに気づき、果穂は小さくパニックに陥った。
「ごめんなさい嘘です私のためです、でも成仏させてたのは本当です、ごめんなさいぃぃぃぃっ!」 …… くれ』
「………… へ?」
何か言われたが、夢中で謝っていたため聞こえなかった。
思わず聞き返せば、青年の両手が顔の脇に勢い良くつかれる。
整った顔がより接近し、背後のシャッターがガシャン、と大きな音を立てた。
ひっ、と果穂は息を飲んだ。
(物理OK……!? まじに、詰んだ……)
霊の中でも、物を動かしたり音を出したりできるタイプの輩は、明確に危険だ。
そして、この状況で壁ドンならぬ壁ガシャ (シャッターだけに) をなさっているということは、きっと相当お怒りなのだろう。
クッキリとした二重の瞳が、とんでもなく真剣である。
(先立つ不孝をお許しください……っ!)
なぜか脳裏に浮かぶ時代がかった詫びを遠方に住む両親に向け、果穂はぎゅっと目を瞑った。
その時。
叫ぶような美声が、果穂の耳を撃ちぬいた。
『俺を、思い切り殴りとばしてくれ!』
……………… へ ?
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