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プロローグ
-- 夕焼け島の太陽の光と慈愛の心を込めた、伝統の 『菜津みかん』 菓子をあなたに --
パソコンの画面の左半分を占めているのは、海と空を赤く染め上げる夕日と、片手に赤ちゃんを抱いて片手で夏みかんを差し出す袿姿の美しい女性とが絶妙なバランスでコラージュされた写真がトップを飾る企業ホームページ。
左上に小さく "夕焼け食品株式会社" と表示されている。
パソコンの右半分を占めるホームページエディターの編集画面が動き、企業名の下のお知らせ欄に " new! 夕焼け島祭り記念セット販売中 " という文字が打ち込まれた。
その文字は2・3度、色や大きさを変えて、一番見やすい姿に納まっていく。
-- 何度も見え方を確認しながら、丁寧に作業をしているのは、大きめの丸い眼鏡をかけた地味な女性社員だ。
時刻は夜、7時半。他の社員たちは帰っているのか、部屋には彼女以外の人影はない。
それでも彼女は、特に不満そうな様子もなく、地道に次の作業に取りかかっていた。
商品の菓子の画像をいくつか選び、適切に配置して紹介文を書く。下に、取り扱い店と通販用ページ、祭りの紹介ページへのリンクをそれぞれ貼り、ひとつずつチェックしていく。
部屋に響くのは、カタカタとキーボードを打ち、カチカチとマウスを鳴らす音だけだった。
-- ドスドスと荒い足音と共に、「キミぃ! まだ残ってるのかね!?」 というダミ声が聞こえるまでは。
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