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プロローグ 父母ヶ浜
6月上旬。
香川県三豊市にある、笠折中学校に通う3年生の私、羽村桧月は憂鬱な日々を送っていた。
その一番の要因は、高校受験に向けての勉強のストレスだった。それはクラス30人全員が、同じように抱える悩みでもあった。
私は学校では柔道部に所属していて、県大会に出場するなどの成績も残しており、高校に入っても柔道は続けるつもりだ。だが勉強においてはからきしで、特に英語や数学が苦手。テストや模試で全然点数が取れない。
高校生活には憧れるが、この受験勉強という"関門"を乗り越えなければ辿り着けないと思うと、気分が落ち込み死にたくなることさえある。
そんな時は、私は一人だろうが友達を連れてだろうが、学校から歩いて15分ほどのところにある絶景の名所、『父母ヶ浜』へ行き、写真を撮ったり寝そべったりして我を忘れて楽しむ。
父母ヶ浜は日本の夕陽百選にも選ばれていて、近年はSNS映えすると話題の撮影スポットである。ここへ来ると心が安らぎ、勉強のことを忘れられ、私にとっては憩いの場だ。
今日は夕暮れ時を楽しもうと、19時過ぎにクラスメートの川西翡翠と共に訪れた。
「やっぱりいつ来てもきれいね、この父母ヶ浜の夕陽は。これを見ると癒されるわ」
「そうだね。ここは『日本のウユニ塩湖』と称されているからね。ウユニ塩湖は南米ボリビアにある、"天空の鏡"とも呼ばれる巨大な湖さ。他にも秋田の『鵜ノ崎海岸』や和歌山の『天神崎』なんかも、同じように称されているよ」
翡翠は自慢げに、自身が保持している雑学を語った。
彼は背が低く頼りなさそうな童顔だが、物知りで特に地理的なことについては、中学生とは思えないほどの知識量を備える。
ちなみに私も小柄で低身長、髪型はショートカットだ。趣味はアニメや特撮を見ることで、『スルーヒロイン』というアニメの柔道が得意な主人公、木林彩に憧れている。
「出ました、物知り翡翠くんの蘊蓄ショー。何度も聞いてますって。どうしたらそんなマニアックな情報を知り得るのかねぇ。私にはさっぱりだよ」
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