プロローグ  父母ヶ浜

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
私は両手を曲げて、首をかしげる動作をした。 「僕は昔からクイズ番組が好きだったんだ。勉強は別に得意じゃないけど、世の中には自分の知らないことが沢山散らばってるだろ。そういうのを知ることが楽しいのさ」 「へえ。本当に楽しそうね。それはそうと翡翠、勉強は(はかど)ってるの?私、やっても全然頭に入ってこないんだ。どうしよう」 私が不安がる受験勉強の話題に転換すると、翡翠も嬉しそうな表情を一変して曇らせて嘆いた。 「僕ももう実はあきらめモードなんだよ。参考書を読んだりノートを読み返していても、スマホでゲームをやったり、雑学が気になってネット検索したりしてしまう。まるで集中できないんだ。なんか、クラス中のみんなが同じような雰囲気というか、受験勉強に心底疲れてる状態に見えるよ。桧月はどう思う?」 「うーん、何だかそんなムードよね。萌奈(もな)とか芹沙(せりさ)も言ってるし、叶夢(かなむ)たちなんか完全にあきらめて開き直ってそうなイメージ。みんな高校には行きたいだろうし、中学校生活は楽しんでるんだけど、受験勉強だけが異様に嫌って感じかな」 私は親しい友達や不良グループの男子の名前を挙げ、落胆した顔で言った。 笠折中学校は田舎の中学のため、3年生は一クラスしかなく、人数は30人である。都会ほど塾に通う生徒は少なく、自力で勉強に励む人間の方が多かった。 「まあ、あんまり考え込まないことだよ。まだ6月で夏休み前だし、休み中にしっかりやれば挽回(ばんかい)できるかもしれない。適度な息抜きも必要だよ。こんな風にね」 そう言って翡翠は浜に溜まっている砂を、わざと私の方に向かってかけてきた。 「わっ!何すんのよ、こんなの息抜きじゃない!やったな」 翡翠の不意打ちに怒った私は、負けずに両手で大量の砂をすくい、彼に投げつけた。 「ははは。やめろって、目に入ったらヤバいだろ」 「そっちがしかけてきたんじゃん。この、このぉ!」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!