Chapter1   激動

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Chapter1   激動

         1          登校 「桧月ぃ、おはよう。今日も暑いね」 6月21日、火曜日の朝。 クラスメートの新野萌奈(にいのもな)杠芹沙(ゆずりはせりさ)が私を迎えに来ていて、萌奈が呼んだ。 「おはよう。うん、何だか蒸し蒸しするね。あー、最近朝起きるのがだるいよ。もっと寝てたいのに」 ふあーあ、とあくびをして両腕を空に伸ばす私。それを見た萌奈が、クスクスと口に手を当てて笑った。 「あらあら、寝つけなかったの?もしかして受験勉強してた?桧月に似合わず」 「してるわけないじゃん、柔道バカの私が。過去の『スルーヒロイン』の録画を視聴してて寝不足なんだよ」 「うっそ、私も見てたよ過去作。前回面白かったよね、彩が試合中に泣いちゃう話」 柔道アニメの話を持ち出すと、すかさず芹沙が割って入った。『スルーヒロイン』は、今や女子中高生に大人気のアニメなだけあって、皆に知れ渡っている。 ここらで親友2人の紹介を簡単にしておこう。 萌奈はバスケットボール部所属で168センチと背が高く、世話好きなお姉さん的存在。髪型は私と同じくショートカットだが、色は濃い茶で左に花形の小さなリボンをつけている。 芹沙は卓球部所属で、私と同じ152センチの小柄。ロングの黒髪で、人なつっこい性格。趣味は男性アイドルの追っかけと、アニメのフィギュアやカードを集めること。 私たちは小学校からの仲良し3人組で、家も近所なので毎日のように一緒に登校している。並びは真ん中に萌奈がいるため、身長差があり遠くからだと山のように見えるだろう。 笠折中学校までは、家から歩いて30分かかる。通学路は海辺が近く、背後に山々がそびえ立つ自然豊かなロケーションだ。そして瀬戸内海の燧灘(ひうちなだ)に面しているせいか、潮の香りが心地よい。穏やかに吹く風も感じられ、少々時間を要しても飽きずに登下校を楽しめている。 私たち3人は談笑しながら中学校の校門をくぐり、一クラスしかない3年生の教室へと入った。 「みんな、おはよう」 「おはよう、萌奈」 「萌奈ちゃん、おはようさん」
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