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必殺技
若水先生の思いがけない言葉に、私は一瞬血の気が引くような感覚に襲われた。
「若水先生…?知ってたんですか?集団自殺計画のこと。知ってて、ずっと黙っていたんですか?」
私がおそるおそる聞くと、先生はなおも笑顔で淡々と答えた。
「そうさ。清美から、既に聞いていたんだ。日付もちゃんと覚えてる。6月27日に、相談があると言われてな。父母ヶ浜で海を見ながら、彼女は俺に話してくれたよ」
「清美が…?6月27日に?じゃあ2ヶ月も前に、"密告"してたってこと?それを知ってたのなら、なんですぐに対策してくれなかったんですか?私たち、ずっと辛い思いをしていたんですよ?投票で"死にたい側"が増える度にあたふたして、自信を失くして…夏休みだって、全く受験勉強もできなくて無駄に過ごしたんです。さっきみんなの最後のメッセージを読んでいた時、急激に死の恐怖に襲われてようやく目が覚めた。それで先生に助けを求めようと決めて、必死に探したのに…。そんなひどい仕打ちってあります?」
私は怒りと悲しみで感情的になり、先生を責めた。
いくらなんでも、理不尽すぎる。
担任教師なら、そんなことを相談されたら一刻も早く生徒に話を聞くべきではないか?あるいは、全員を一喝して説教するでもいい。あの優しく生徒想いの若水先生は、どこへ行ってしまったんだ?まさか、全てが演技だったとでも?
私は絶望的になり、何を信じていいのかさえわからなくなってきた。
「俺もそれを聞いた時は心底驚いたよ。だけど同時に、口だけで本気で行おうとするとはまるで信じなかった。それに密告がバレたら、清美は叶夢たちに何をされるかわからないと言っていた。面倒なことに巻き込まれたくなかったんだよな。だから黙って様子を見てた。終業式までずっと、"傍観者"でいたんだよ。でもまさか、本当に実行しようとするとはな」
この言葉を聞いて、更に落胆する思いがした。
面倒なこと?生徒を助けることが?
"傍観者"って何だよ?いちばん身近にいて、高みの見物かよ。
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