Chapter8   救世主

10/18
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「何ですか、その無責任な言い分。私の、みんなの2ヶ月が台無しじゃないですか。とにかく今すぐ教室へ来て、叶夢を止めてください。奴は17時に硫化水素を撒いて、みんなを(ほうむ)り去るつもりです。今ならまだ準備中なんです、早く来て!」 「ははは。自殺なんてそんな簡単にできるわけないだろ。まあそこまで死にたいのなら、好きにさせてやればいいんじゃないか?たかが14・15で人生を投げる程度の甘ったれた根性なら、この先思いやられるしな。俺はお前らの世話するの、何だか疲れたんだよ」 「そんなこと言わないでお願いします!」 「僕からも」 どんなに説得しても我関せずな態度を示す先生に、私だけでなく翡翠も参戦して懇願(こんがん)した。 「どうしようかな。自殺を止めたら、なんかご褒美(ほうび)でもくれるのか?なあ、桧月」 「ご褒美?」 「そういえば清美は俺にゾッコンだったな。あの2ヶ月前の父母ヶ浜で、なかなかいい感じに抱き合ったぜ。やっぱり女子中学生の肌は、若くていいよな~」 ふざけんな。 いい加減にしろ、この"エロ教師"!絶対に許さない。 「てめぇ~~!!」 「桧月!?」 私の怒りは頂点に達し、若水先生に接近してガッと腕をつかみ、柔道の技である一本背負いをした。予期せぬ行動に慌てた先生は、運動神経がいいためか咄嗟(とっさ)に受け身をして難を逃れたが、地面に体をぶつけ、痛そうに背中をさすった。 決まった。 アニメ『スルーヒロイン』の主人公、木林彩ちゃんの必殺技、一本背負い。 どんなもんよ! 「いってぇ…お前、いきなり投げ技とか反則だぞ。でも、さすがは柔道部だな」 観念したように、先生はなぜか私を褒めた。優勢になった私は、先生が優しさを取り戻すように全力で訴えた。 「若水先生。あなたはいつだって生徒の味方だったじゃないですか。体調を気遣ったり、受験勉強無理しないでって言ってくれたり。私、あの優しさは本物だって今でも信じてます。清美のことだって、本当は彼女をかばってたんじゃないですか?不良グループの仕返しから守るために……」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!