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提案
この日の昼休み。
昼休みは大抵の生徒が、教室でおしゃべりをしたり勉強したりして過ごしている。普段は男子の数人は校庭でボール遊びをしているはずだが、今日はなぜか全員が室内に揃っていた。
翡翠は学級委員の博武と、何やら親密に話をしているように見えた。
「博武はクラス一の成績優秀者だから、やっぱり受験勉強に悩みなんかなくて楽勝なのかい?模試でも全教科Aランクで、あの高香高校にもA判定なんだろ?」
翡翠が、わかりきったように決めつけて尋ねた。
高香高等学校は、高松市にある香川県内でいちばんの進学校である県立高校だ。博武をはじめ、男女共にクラス上位の成績優秀者は、この高校を第一志望にして勉学に励んでいる。
博武は大きな黒いメガネの右レンズを、親指と人差し指でつまみながら言った。
「まあまだ確定ではないがね、5月末に受けた模試は思った以上の出来かな。英語の長文も自信があるし。悩みというより、連日の勉強疲れで寝不足だ。川西くんは今、行き詰まっているのかい?」
椅子に座っている博武が、立っている翡翠を上目遣いに見てニタッと不気味に笑った。
「僕は知っての通り雑学通だろ?クイズに必要な知識ばかりを調べていて、勉強はそっちのけになってるんだ。やらなきゃいけないと頭でわかっていても、他の楽しいことに気を取られて結局全く進まない。こういう負のループにはまったら、どうしたらいいと思う?」
父母ヶ浜ではあきらめモードと言っていた翡翠も、やはり今の状況を何とかしたいらしく、ガリ勉の博武に助けを求めているようだ。
「ズバリ、メリハリをつけることかな。例えば今日は気分が進まないから雑学だけにして、その代わり明日はしっかり3時間集中しよう、とかね。その内容も、メモに記しておいた方がいいよ。英語は単語、数学は因数分解の復習とか……」
「おいみんな、驚かないで俺の話を聞いてくれ」
ふいに、不良グループのリーダーの土倉叶夢が教卓に立って大声で叫んだため、博武の言葉は遮られてしまった。
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