Chapter8   救世主

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「なあみんな。どうしてそんなに死にたいんだ?受験勉強が辛いか?あるいは、友達や家庭の悩みか?人それぞれ色々あるだろうが、辛いことがあっても乗り越えていかなければならないんだ。死んでしまったら、その悩みや苦しみからは解放されるかもしれないが、二度と笑ったり感動したりできないぞ。誰にも会えなくなるしな。それとも、みんなで死ねば怖くないとでも思ったか?お前ら、ひょっとして感情や感覚が麻痺(まひ)してしまっているのかもな。叶夢。お前はさっき硫化水素を準備していた時、躊躇や迷いはなかったのか?死ぬことだけ考えていたのか?」 「ああ。俺は死ぬのは怖くねぇ。硫化水素なら、やり方さえ間違わなきゃ一瞬で即死できるんだ。集団自殺にもうってつけなんだよ」 「それはとんだ勘違いだな。あくまでネットの情報だろ?いいか、即死レベルの濃度を発生させるのは、知識のない素人には極めて難しい。失敗率も高い。死体もきれいとは言えず、緑色になるそうだ。正直、かなり苦しむぞ。硫化水素自殺は、""んだよ」 その言葉を聞いた瞬間、余裕な態度でふんぞり返っていた叶夢の目が、カッと見開かれた。 「何だって?なんであんたがそんなことを知ってるんだ?」 「それはな……」 叶夢の問いに先生は一瞬口ごもったが、すぐに話し続けた。 「俺の過去の話をしよう。14年前、俺が高校3年生の時だ。俺は大学受験の勉強が苦痛で、一時的に強く死にたいと思っていた。今のお前らと同じような状況にいたんだよ。当時仲のいい友達がいて、そいつも死にたいと思っててさ。 実を言うと、かなり気分が落ち込んだ時期があって、その友達と一緒に自殺する計画も立てていたんだ」 何だって?若水先生にも、自殺願望が? そんな過去があったなんて全く知らず、私は目を丸くした。同時に、この授業は今の私たちにどストライクに心に響く内容な気がした。
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