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Ⅲ
ふふ、私は高口マリアのドッペルゲンガー。
一ヶ月前、私は高口マリアのマンションの前で彼女を待っていた。その日は彼女が病院に行く日だと調べていたから……。私はマンションをぐるりと囲む、植込みのレンガの縁に座って待った。
一時間も待つと彼女の姿が近づいてくるのが見えて、私はすぐに彼女から視線を外して俯いた。彼女は淡いパステルイエローの小さな花柄のワンピースに、薄いベージュのローヒール。見るからに清楚なお嬢様に見えた。 それだけで少しムカついた。
彼女はコツコツとヒールを鳴らして、私の前を普通に通り過ぎようとしたけど、案の定私の目論見通りピタッと立ち止まった。
私、出来るだけ惨めに見えるように髪の毛をわざとぼさぼさにして、捨てる寸前の毛羽立ったパーカーとくたびれたパンツって姿だったから。私は自分を餌に釣りをしてる気分だった。高口マリア、早く私を釣り上げてって。
彼女はお得意の善意でもって可哀想な人間を目の前にして、知らんぷりするなんてことが出来ないと分かっていた。
彼女はいつだって誰かに施しがしたいらしいから。
「あのう、あなた大丈夫?」
計算通りに彼女は話し掛けてきた。
私は俯いたまま数秒彼女の反応を待った。 彼女はちょっと迷ってる風だったけど、このまま立ち去るわけがない。何日か彼女を尾行しているうちに、彼女がホームレスや体の不自由な人に声をかけているのを何度か見ていたから──本当に彼女は人を助けれずにはいられない人。お目出度い人。
彼女はお金持ちのくせに乗り合いバスに乗ったりする。そして年寄りというには微妙な年齢の人に席を譲ろうとして「わたしは年寄りじゃないわよ」って怒らせてた。
彼女は世間知らず……人を見極めなくちゃ。
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