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Ⅳ
「高口マリアさんは先生の患者さんですね」
「ええ、もう十年も前から私が診ています」
「実は高口さんが110番に、うちにドッペルゲンガーがいると通報して来たんです」
「それはそれは」
「薬を飲み過ぎたらしいのですが。高口さんご本人に実際お会いして異常無しってことは分かったんですけど、私、どうにも都市伝説好きと言いますか、ちょっと興味を持ちましてね」
「ご承知でしょうけど、いくら警察の方とは言っても患者さんの話をするわけにはまいりません──はあ……そんなにお知りになりたい……困りました。ではひとつ、ある架空の女性の物語をお話しします」
「あ、はい! 承知しました」
「その女性はご両親が早くに亡くなってから、それは厳しい祖父母に育てられましてね、寂しさもあってか、内在性解離という心の病に陥ったのです。もう一人の自分を作ってしまうんですね。 彼女は無職なんですが、時には外で働いている自分を作ったりすることもあります。登場人物のバックボーンも仔細に渡っていて非常によくできています。もちろん幻覚ですけどね。それでたまに診察の際に『うちにドッペルゲンガーがいる』なんてことを訴えたりするのです」
「内在性解離……」
「あくまでもこれは架空の話ですからね。治療は主に心理療法ですが、薬を処方して幻覚を見るに至る精神状態を抑えているのです。しかし薬にも限界がありますからね。それに薬は用量を守っているといいんですけど、飲み過ぎると逆効果になります」
「そうですか……何れにせよ。ドッペルゲンガーとは幻覚なんですね。彼女の話はじつにリアルだったんですけど。そっくりさんとの出会いから事細かに話してくれまして一ヶ月も部屋にいたらしいです」
「ホラー映画じゃない限りは自己像幻覚という現象ですよ」
「難しい病気ですね。分かりました。すみません、私ちょっと都市伝説チャンネルの見過ぎです。本当に高口マリアさんがドッペルゲンガーに遭遇していたらなんて、期待を込めた馬鹿な妄想してしまいました」
「刑事さんもお若いですね」
「いや、お馬鹿なだけです。お忙しい中すみませんでした。お付き合い下さって」
「いえ、お役に立てたか分かりませんけど」
「ありがとうございました」
「こちらこそ、私の患者がご迷惑おかけしました」
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