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声を掛けて数秒後、彼女はゆっくりと顔を上げました。彼女の顔を見た途端、ぎょっとしました。 心臓を吐き出しそうなくらい驚きました。だって彼女は私とそっくりだったのですもの。そっくりと言うか……もはや私自身でした。
知り合いだって──と言ってもほとんどいませんが、祖父母だって私だと認識したと思います。彼女がもう少し身だしなみを整えていたならの話ですが。
ドッペルゲンガー?
これが、あのドッペルゲンガーというものなのかしら? そう思いました。でもドッペルゲンガーって幻覚なんですよね。だけど目の前にいる人は実在しているのです。
「あなた一体、誰?」
今思えば初対面の人に随分と失礼な質問だったかもしれませんが、私がそう尋ねると彼女は、
「ワタシは……アナタ」
と言うのです。
「私?」
「そう……アナタ」
話になりません。
「冗談はやめて……」
「オナカスイタ」
「え……え?」
「オナカスイタ」
私は気味が悪くなってそのまま無視してマンションに入ろうと思ったんですけど──そうなのです、 それも出来たはずなのに……私はつい言ってしまったんです。仕方がありません。「お腹空いた」なんて言っている可哀想な人を放って置ける人なんていないですよね。少なくとも私には出来ませんでした。
「あなたお腹空いてるの? じゃ、じゃあ、 私の部屋に来る? 簡単なもので良かったら何か作ってあげるわ」
そうなのです。私は困っている人につい手を差し伸べてしまうのです。──私の言葉に彼女は黙って立ち上がると、
「イク……」
と言って、被さった前髪の間から私の目をじっと見ました。
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