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「この全部が、EDENの……?」
目に入る脳はすべて脳だけとなっている。いくつかの電極が繋がっており、脳幹から下が途切れている。
「か、体は……?」
「不要でしょう。彼らの意識は閉じており、各所の神経とも遮断しているのですから。脳以外は無用の長物……他の活かし方をするのが得策です」
セルパンは紳士的に説明しているようだが、にこやかな口から飛び出す言葉の一つ一つが不気味で、不吉だ。
耳を閉ざしたかったが、片方でその続きを聞かなければという使命感が、勝手に続きを促した。
「他の、活かし方……?」
「肉体の質にも因りますが、ドナー移植が主です。救命率も幾分か上昇しました」
ふと、さっきの言葉を思い出した。俺がEDENへ行けば妹を救う事が出来ると言った。それはつまり……
「俺もドナーになるのか? 妹の……?」
「ええ、最も効率的で安全な選択かと」
悪魔が、目の前にいた。悪魔は俺の視線など構わずにまだ何かを続ける。
「あとは食糧ですね」
「は?」
訊ね返す俺の顔など見ず、セルパンはただ詳細な説明を追加した。
「食糧自給率……特に肉などの動物性のたんぱく源の確保量が減少していました。多少の解決になっています。無論、ご家族への配給が優先されます」
「配給だって……!?」
「貴方も手にしたでしょう? ご両親がEDENに入られた後、緊急手当てをお送りしました」
確かに3年前、両親が突然EDENに行ったと知らされた。それと同時に、多額の金と山ほどの配給品が届いた。その中には、俺たちが滅多に食べられない”生の肉”もあって……
「! う……ウッ……ゲェェッ!」
記憶が、濁流のように押し寄せた。そしてあの時口にしたものすべてを元に戻そうというように、胃が逆流を起こした。だが零れ落ちた汚物の中には、あの肉など少しも入っていなかった。
「ああ、どうかそのまま」
わなわなと震える俺を置いて、どこからか現れた小型清掃ロボットが、俺の吐しゃ物をきれいに拭き取っていく。2台のロボットが掃き清めた後は、それまでと何ら変わらない美しい床に戻っていた。
「そうか……EDENは結局のところ、医療用素材と食糧確保の為の撒き餌だったわけだ」
掠れた声で呟く俺に、セルパンは首を横に振った。
「いいえ、それだけではありませんよ」
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