LIFE on LINE

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「より優秀な人間の知能によりAIは開発され、現在ではオフラインワーカーの就業率を超えています。しかしこれは逆にこうも考えられませんか。優秀な知能の持ち主はAIに代わる事が出来る、と」 「……は?」 「脳の睡眠と覚醒を制御し、オンライン上の知能として各種ロボットなどに接続するのです。先ほどの清掃ロボットのようにね。今はまだ実験段階ですが、成果もまずまず……実に順調に進んでいます」  ここにいる脳はすべて、いまや街中に配置されているロボットたちの”脳”になってやっていると、そういうことなのか。   「父さんと母さんも……?」 「ええ。先ほどお会いになられましたよ」 「先ほど……まさか、さっきの……!」  セルパンは、笑顔で頷いた。  さっきの清掃ロボットを動かしていたのが両親だと、そう告げた。 「ご両親の研究内容のおかげで我々の計画は捗りました。次の段階へ移行しようと思っていた矢先、貴方という素材を発見したのです」  セルパンの視線は、まっすぐに俺の体へと向けられていた。  それがこれほど身の毛のよだつものだとは、想像だにしなかった。 「まさか……次は人間の……俺の体に?」 「AIと人間の体の親和性……それが次の研究課題です」  笑顔で応えるセルパンを前にして、俺は、ついに床に崩れ落ちた。足も手も唇もがくがくと震える中、必死に、懇願の言葉を紡ぎ出した。 「嫌だ……俺は、EDENなんて行かない……!」  座り込んだまま震える俺を宥めるように、セルパンは静かな声音で告げた。 「貴方は帰ることなどできません。すべての秘密を知ってしまったのですから」 「そんな……俺は何も言わない……!」 「人間の口頭での誓約は信頼に足りないと判断します。機械と違って制御できませんからね。ですが、多少考慮いたしましょう」  そう言うと、セルパンはタブレット端末を差し出した。画面にはその内容は先ほどの同意書のものと同じ文面が表示されている。 「こちらに同意のサインをどうぞ。サインすれば、妹さんの今後のすべてを保証し、貴方はEDENという夢の中で生きられます」 「サインしなければ……?」 「それら一切の権利を破棄したものとします。さあ、どうします?」  そう言って、ペンを押し付けてきた。 「……あんたは、また嘘をついているな」  先ほどの言葉を拾い集めれば、これまで感じていた胡散臭さが一気に解消されていく。  望むものすべてを無限に与えることなど不可能だ。住人を管理するサーバーにそもそも上限があるからだ。それに何の苦悩もない世界などあるものか。膨大な人口が存在する世界で軋轢一つ起きないなど、あり得ない。  そんな世界は、自分一人の中にしか存在しない。 「EDENなんて無いんだろう?」  そう問うた俺の瞳を、セルパンが見つめ返した。子どもを窘める様な優しい笑みで。 「EDENはありますよ。各々の心の中……いえ、夢の中にね」  やっぱり……その言葉だけが、頭の中に鳴り響いた。  彼らはEDENに住まわせると言って強制的に睡眠状態へと促し、それからずっと夢を見させているのだ。各々が望む夢を。    EDENなど……楽園など、オンラインにもオフラインにも、どこにも無かった。  あるのはただ、真っ暗な未来だけ。  俺は力の抜けた手で、かろうじて差し出されたペンを、受け取った。
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