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私は男子大学生。田舎を離れ上京し、今は二階建てアパートの二階角部屋、八畳一間の部屋に住んでいる。
とはいっても上京したのは一年前。今は都会の環境にも慣れ、大学生活を満喫している。
そんなある日、抗議前の時間におもしろい噂を聞いた。
「ねえねえ知ってる?間違い通販の噂。」
話しかけてきたのは女子学生。講義で使うプリントを忘れた彼女にコピーを渡した事で知り合って、今では仲の良い友達だ。男女分け隔て無く、気さくに話しをしてくれる彼女はいつもどこからか新しい話を仕入れてくる。
「知らない、なにそれ?」
私は抗議で使う教科書やノートを出しながら質問した。
「オンラインショッピングのサイトなんだけどさ、そこで商品を買うとぜったい間違った物が届くんだって。」
なぜかうれしそうに話す彼女に私は正論で回答する。
「それってただの迷惑な通販サイトってだけじゃん。」
「それがこの話には続きがあってさ。そのサイトは検索では見つけられなくて、ホントたまたま巡り会うんだって。それで間違えて送られてくる商品はその人にとって本当に必要な物が届くらしいんだ。」
「へー、いいサイトなのか悪いサイトなのか分からないな。」
「そして数回そこで通販するとある日突然そのサイトは使えなくなり、その人は二度とそこで通販する事が出来なくなるという・・・」
「えっ、なに?ホラー系の話だったの?」
戸惑う私に彼女が笑いかけてくる。
「どう?怖かった?」
「いや、別に・・・」
「結構奇妙な話だと思ったんだけどな。ちなみにサイト名はね。」
そう言って彼女は私のノートにサイト名を書き出した。
その後は普段と同じ講義が始まり、そしてゼミ活動に顔を出し、一日は過ぎていった。もちろん噂の話なんて記憶からすっかりと消え去っていた。
あの噂から数日、私の家に通販で買った品が届いた。
注文した物はメタルラック。近場のショッピングモールではほしいサイズの物がなかったため通販を利用したのだが、家に届いたのはどうみてもメタルラックが入っているとは思えぬ手のひらサイズの小包だった。
手違いで別の品が届いたのだと思い、使用した通販サイトで返送方法を確認しようとした。その時ふとそのサイト名に見覚えを感じた。
数日前の講義ノートを取り出すと、そこに書かれていた彼女の文字と同じ名前の通販サイトであった。
驚きと同時に送られてきた内容物が気になった。
「本当に必要な物が届くって言ってたけど・・・」
半信半疑で小包を開けてみると中には自分が使うのにちょうど良いサイズのマグカップが入っていた。
「なるほど。たしかに自分に必要なものだ。」
思わず独り言を呟くほどにピッタリな物だった。なぜなら昨日の夜、私は似たようなサイズのマグカップを割ってしまっていたからだ。
これは面白い。
そう感じた私はしばらくその通販サイトを利用することにした。
もう一度メタルラックを注文したら、今度は携帯用のモバイルバッテリーが届いた。これは数日後、遠出をした時にナビとして使用していた携帯の電池が切れた際に使用できたためとてもありがたいものであった。
今度は個性的なデザインの帽子を注文したのだが、届いたのは持ち運びできる電池式のランタンだった。これは届いたその日に停電があり、夜間の明かりとして使うには十分な代物だった。
ゲームソフトを注文したときもあった、その時にはなぜか女性物のブレスレットが届いた。これはそれから一週間後、以前から気になっていた女性のお誕生日会でプレゼントすることができた。彼女はとても喜んでくれて、それから彼女は毎日そのブレスレットを付けてくれていた。
確かにここまで悪い物は届かなかった。しかし次に届いた物が問題だった。確か近所の書店にはなかった本を注文したときだったと思う。届いたのは片手サイズの小包だったが、サイズに比べて明らかに重たかった。何かと思いながら包みを開けると、中には拳銃とそれに使用するための弾が一発だけ入っていた。
さすがに恐怖を覚え、返品しようと通販サイトを開こうとしたがそのサイトにたどり着くことが出来なかった。
ここでようやく、彼女の言葉を思い出した。
『その人は二度とそこで通販する事が出来なくなる・・・』
これは単純にそのサイトにたどり着けないだけかと思っていた。しかし届いた品物が拳銃であったら意味が変わってくる。
拳銃は撃つためにある。そして弾は一発。つまりは的を外すことはないということだ。他人に向かって打つのなら弾は外れる可能性は十分高い。人に向かって撃ち、なおかつ必ず外さないということは・・・
自分に銃口を向けている絵を想像し、思わず身震いする。
それからしばらく眠れない日が続いた。
目を閉じると想像してしまうのだ、自分がどのような状況で銃口を自分に向けるのか。
それは人生に嫌気がさしたのか、はたまた死を選んだ方がマシと思える苦痛が身に降り懸かるのか。
悪い想像は留まるところを知らずどんどん沸いてくる。もしかしたらこの想像が止まらず、眠れなくなり死を選ぶなんて事も・・・
なかなか寝れず、明け方になりようやく気を失うように数時間だけ意識が飛ぶという生活が5日ほど続いた。
そして6日目の夜。同じように眠れぬ深夜帯。午前3時を過ぎた頃であろうか、窓の外から入る街頭の光がちらついていることに気付く。
何かと思い窓を開けると、室内に煙が入り込む。
私は慌てて携帯と財布だけを持ち、外に飛び出た。ちょうど下の部屋からの火事であった。
私は慌てて消防へ連絡し他の部屋の戸を叩き住民を起こして回った。
消防が到着し火は消された。幸いにもけが人は一人も出なかったが、4部屋ほどが全焼。そこには私の部屋も含まれていた。
長引いた警察での事情聴取後、重たい足取りで大学の講義室へ向かう。
講義室で講義が始まるまで居眠りをしていると、聞き覚えのある声に起こされた。そこにはこのサイトを教えてくれた彼女がいた。
彼女は私の隣に座り眠気の理由を聞いてきた。
私はこのサイトを見つけてからの数日間を彼女に話した。
「ふーん、そうだったんだ。でも結果としては良かったじゃない、こうやって無事に講義に出れてるし。」
「無事とは言ってもね、部屋が全焼してるから財布と携帯以外何もないんだよ。今日の講義だってさっき売店で買ったノートとシャープペンシル以外は持って無いし、これから部屋が見つかるまでしばらくネットカフェ生活かなぁ・・・」
ため息混じりで私がぼやくと彼女は少し考えて、そして恥ずかしそうに言う。
「部屋が見つかるまでなら、私の家にでも・・・。私も一人暮らしだし、別にあなたが居ても困らないし、むしろ一緒に入れる時間が増えるなら嬉しいぐらいだし・・・」
「えっ、いいの!?」
思わず声に出して驚いてしまう。
恥ずかしさからもじもじと話す彼女の腕には、この通販で届いたブレスレットがキラキラと輝きながら揺れていた。
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