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一
学生やサラリーマンが行き交う、朝の街中を、自転車で走り抜ける、物凄く出っ歯な男子高校生。
彼の名前は沢田幸隆。ちょっぴりシャイな高校生。三週間前に、二年生になったばかりだ。
(神様、お願いします。今日も一日、誰からも話し掛けられませんように!)
赤信号に捕まった沢田は、自転車に跨がったまま、お経のように繰り返し念じる。そう、彼は、人と話すことが、極度に苦手なのだ。
不意に、話し掛けられたために、飛び上がりながら失神してしまう。そんな出来事が、進級してから百三十回あった。これ以上、失神したら天に召されてしまう。
話し掛けられるだけでこれだ。もし、『ありがとう』なんてセリフを言われたら……きっと、その場で消滅してしまうだろう。
それは、沢田が言う側だとしても同様だ。そんな立場になったら、切腹して果てる覚悟を、持ち合わせている。
自分の命を守るためにも、なるべく存在感を消して、日々の生活を送っている。
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