こんにちは、小鳥先生

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こんにちは、小鳥先生

「どうしよう、兄ちゃん」  どうしようなあ。兄ちゃんにもわかんねえや。  逃げたいわ。  フレディは呆然としていた。二十歳になったばかりの青年の目の前では、煉瓦造りの小さな家の屋根が砕け玄関扉が外れて倒れ、つまり見るも無惨に崩壊しており、その元凶である八歳の小さな弟、ニッキーが己のしてしまったことにうちひしがれ、凍りついていた。  事の発端は、この弟である。  優秀な魔法使いの家系、マギンティ家に生まれたフレディとニッキーの兄弟は、魔法においてたぐいまれなる才能を持っていた。否、フレディなど、弟に比べれば凡人の域を出ないと言っても、悔しくもなんともない。一体この弟が出来上がる過程で何が起きたのか皆目見当もつかないのだが、なんにせよ、フレディよりも、両親よりも、圧倒的な魔力を有して突然変異のように生まれてきた。それがニッキーだった。  問題は、その魔力を扱う技術がまったく追い付いていないことにあった。教わったことは理解できる。同じ年の子供に比べれば吸収も早い。何より頭が良い。しかし、それでは全く足りないほどに彼の魔力は膨大だった。だから時折、思いもよらぬときに暴発する。その規模も弟の意志には関係がないし、魔法の種類も、発動するまでわからない。炎が飛び出ることもあれば、周りを氷漬けにしてしまうこともある。兄であるフレディが暴風で吹き飛ばされたのも、一度や二度ではない。いつ爆発するかわからない恐ろしい少年だった。  少し前までは、彼ら兄弟の母親がニッキーの魔力を封じていたので、日常生活を送るのに不自由はなく、魔法を操る方法は徐々に覚えれば良いと呑気に構えていた。しかしそれも、母親の突然の死とともに、のんびりしている場合ではなくなってしまった。フレディには、弟の魔力を抑える力がなかった。母親の死を嘆いている暇もない。一刻も早く弟の魔力を封じなければならない。  母ブリジットは手紙を遺しており、そこには、もしも自分に何かあったらニッキーのことはこの人に頼むようにと記されていた。その人物が、ここにいるという話だった。フレディは弟を抱えて山を越え森を抜け、ニッキーの魔力を封じることができるという人物に会いにやって来たのだ。こんなところに人が住んでいるものか信じがたかったものだが、母親の手紙のとおりの場所に、その家はあった。  無駄足にならなくて良かった。そう、安心したのも束の間のことであった。
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