お世話になります、小鳥先生

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 見れば、家から撤去された煉瓦の山から盛大に炎が吹き上がっている。立ち上がりかけたフレディの頭を、飛び上がったコルムが蹴飛ばした。 「手を出すなと言っているだろう」 「そんなこと言ってる場合か!」 「君がそうだから、彼はいつまでたっても自立できない」  図星だった。それだけに、フレディはひるんだ。  父親はニッキーが生まれる前に死んだ。貴族同士のいさかいがあるたびに戦場に駆り出され留守にすることが多かった母親に代わって、フレディがニッキーを育てたと言っても過言ではない。だから、フレディにとっては、ニッキーはいつまでも小さな弟のままなのだ。それではいけないと心のどこかで気づいていても、助けて、と言われたら手を差し伸べずにはいられなかった。  コルムが素早くニッキーのもとへと飛んでいき、冷静に声をかける。 「落ち着け、少年。氷の魔法だ」 「そんなの思ったとおりにできたことなんかないよ!」 「できるはずだ。理論は頭に入っているのだろう。魔法における最大の敵は己の精神だ。できないと思えば、いつまで経ってもできないまま。それでいいのか」 「でも」 「でもじゃない。君のその弱い心が、君の進歩を遅らせている。裏を返せば、それだけだ。君にはできる。その力は十分にある。自分を信じて、やってみろ」  ニッキーはおそるおそる、火柱に向かって両手をかざした。その瞬間、澄んだ音とともに火柱ごと凍り付き始めた。  彼が氷の魔法を使おうと意識して氷を生み出せたのは、これが初めてのことだった。ニッキーも、見ていたフレディも嬉しく思った。  ほんのわずかな間だけは。 「えっ、えっ、えっ、どうしようどうしようどうしよう!」  氷の侵食はとどまるところを知らず、火柱と瓦礫の山すべてを呑みこんでもまだ、天を貫く勢いでばきばきと成長し続けた。 「どうしよう小鳥先生!」 「泣くな! 魔法を止めろ!」 「さっきからやってるのに止まらないんだってばあ!」  ニッキーが喚いて叫んで大暴れしてようやく止まったころには、瓦礫の山の三倍ほどの高さの氷山が出来上がってしまい、けしかけたコルムもさすがに後悔したらしい。巨大な氷塊を呆然と眺めて、感情の無い声で言った。 「……上出来だ」 「小鳥先生、無理して褒めてくれなくていいよ」
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