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家の敷地に足を踏み入れた瞬間、家に雷が落ちてきた。犯人は当然、ニッキーだった。普通、落雷があったなら火事になりそうなものだが、ただ家を粉砕しただけで火が出る様子はないのは救いだった。魔法の雷とはこういうものなのか、弟の魔法が特別仕様なのか、フレディにはもはやわからない。フレディは雷の魔法を家に向かって放ったことなど、あるわけがなかった。
かくして、かわいそうなニッキーは悲鳴を上げ、疲れ切ったフレディはとっさに逃げることを考え、今に至る。
人里離れたこの家で何が起きたのかなど、誰も、それこそ家主すら知るよしもないだろう。小さな弟を抱えて逃げようと半ば本気で考えたフレディは決して、根っからの悪人ではない。母を失い、頼る者もなく、年の離れた弟に振り回され続けた彼は、ただひたすらに疲労困憊していた。それだけだった。
一方、ニッキーはわずかなりとも逃げようとは考えていないらしく、どたばたと瓦礫の山に駆け込んで、この家の主を助けようとしていた。
魔法の天才には偏屈が多いものだが、まっすぐで正義感の強かった母親に似て、素直で純粋で、魔法使いでさえなければ何の問題もなく世間を渡っていけそうな、自慢の弟である。
それだけに、この状況は悲惨だ。
「誰かー! 誰かいませんかー!」
ニッキーの甲高い声が響き渡る。このままでは、弟まで瓦礫の下敷きになってしまうかもしれない。何より、また魔法が暴発するかもしれない。その方が恐ろしいことに気付いた。フレディは見てみぬふりをすることを諦めて、家主を探し始めた。
「あっ、兄ちゃん、小鳥さんだよ! 小鳥さんは無事だよ!」
ニッキーが嬉しそうに瓦礫の山のてっぺんを指差している。フレディは弟には目もくれずに、入り口とおぼしき木の扉を押し退けた。子供というのは集中力に欠け注意が散漫な生き物である。
「そんなのほっといて人間探してくれよ、頼むから」
フレディには治癒魔法の心得がある。見つけることさえできれば、余程酷い状態でなければ、助けられる。その場合、この家の建て直しの費用を請求されるに違いない、と考えてしまったことは認めるが。
それでもフレディは、弟を人殺しにはしたくなかった。
「いやあ、エライ目に遭った」
瓦礫を漁っていたら突然上空から中年の男の低い声がして、フレディは顔を上げた。この家の住人だろうか。辺りを何度も見渡してみるが、誰もいない。
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