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一方、じっと上を見上げているニッキーが、微動だにせずこう言った。
「兄ちゃん」
「なんだよ」
「あの小鳥さん、喋ったよ」
「は?」
いよいよ、弟の言っていることの意味がわからない。遂におかしなものまで見えるようになってしまったのだろうか。これ以上面倒見きれないのだが。そう考えながらも、ニッキーの視線を追いかけて瓦礫のてっぺんを見てみる。すると、掌に乗りそうなほど小さな小さな白い鳥が、目いっぱい翼を広げたところだった。
その鳥は、ぱたぱたと羽ばたいてニッキーの手元までやってきた。ニッキーが慌てて両手を差し出すと、そこへちょこんとおさまるようにとまる。そして、左側の翼をニッキーにつきつけるようにして、こう言った。
そう、「言った」。小鳥が喋った。
「今の魔法は君だな。まったく、とんでもないことしてくれたものだ」
ニッキーが、大きな目をこれでもかというほどまんまるくして、まばたきすることも忘れている。フレディもまた、煉瓦の塊をかかえたまま目を丸くしていた。
「まあ、ここに住んでいるのは私一人だ。誰かが生き埋めになっているということはないから、そう慌てることはない。無論、片付けはしっかりしてもらうがな」
兄弟は顔を見合わせて、同時に首を傾げた。随分と、想像とは違う展開だ。
フレディはおそるおそる、その小鳥に話しかけてみる。
「ここに? あんただけで住んでたの?」
恐ろしいことに、小鳥はきちんと受け答えをして見せた。喋るたびに小さな嘴がぱくぱくと動いている。
「なんだ。私が煉瓦造りの家に住んでいたのがそんなにおかしいか」
おかしいのはそこだけじゃないんだけど。最早何を聞けば自分の気が済むのか、フレディ自身にもわからない。
「ここに住んでるのは、コルム・オルークって人だって、聞いてたんだけど」
「いかにも。私がその、コルム・オルークだ」
フレディは信じがたい気持ちで母の手紙を取り出して、もう一度目を通してみる。小鳥だとはどこにも書いていない。人間の姿をしているとも、書いていないだのが。確かに、書いてはいないのだが。
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