こんにちは、小鳥先生

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「すごく優秀な魔導士で、ブリジット・マギンティの師匠だったって」  すごく優秀、という言葉に、小鳥は小さな胸を張って得意げになって見せる。 「それほどでもあるがな……なんだその目は。人を見た目で判断してはならないと習わなかったか」 「いや人じゃないし」 「私が魔導士であることもわからんのか?」 「そうは言ってないけど」  この小鳥が魔導士であることは、同じ魔導士であるフレディにはすぐにわかった。それも、才ある魔導士だった母ブリジットに勝るとも劣らないほどの実力を秘めている。小鳥だが。その魔導士が小鳥の姿をしていることが、フレディの理解を遅らせているのだが。 「ならば文句はあるまい。ブリジットのこともよく知っている……あれほどの才能がこれほど早く世を去るとは、惜しいことだ」  小鳥は声を低くした。間の抜けた姿をしているが、ブリジットの死を悼む心は伝わってきた。 「おふくろが死んだことまで、知ってるのか」 「人のことをあれこれ聞く前に、せめて名乗ってはどうかね」  いや人じゃないし、とフレディはもう一度言いかけたのだが、それよりも先に、素直なニッキーが頭を下げた。 「ニコラス・マギンティです。こっちは兄ちゃんの、フレデリック・マギンティ」 「ほほう。ニコラスということは、君がニッキーだな」  ニコラスをニッキーと呼ぶのは珍しいことではないが、この物言い、そもそもニッキーのことを知っていたような口ぶりだ。ニッキーは首を傾げた。 「おれのこと、知っているの?」 「ブリジットから少しは聞いている。彼女が頭を悩ませていたのは君だな、少年」 「……はい」 「君の兄は私では不満そうだが、どうだ? 君には私から学ぶ意志があるか」 「教えてくれるの?……おれ、お家ぶっ壊しちゃったのに」 「それについては君にどうにかしてもらうから、それほど気に病まなくていい。それとも、君も私では力不足だと思うかね?」  ニッキーはぶんぶんと首を振った。 「兄ちゃんだってちゃんとわかってるよ。あなたが小鳥さんだなんて思わなかったから、すごくびっくりしたっていうだけで」 「ほう」 「だから、よろしくお願いします、小鳥先生!」  これには、コルムが小さな目を器用に細めて見せた。 「いや、私にはコルム・オルークという名前が」 「小鳥先生、お家のこと、本当にごめんなさい。まずはお片付けをしたらいいですか? ご飯の用意をしたらいいですか? それとも、早速授業をしてくれるんですか?」 「人の話を」  その時、唐突にニッキーの両手から燃え盛る火炎が噴き出した。いつもの、ニッキーの魔法の暴発である。当然、その手に乗っていたコルムが炎に包まれ、ニッキーが悲鳴を上げてコルムを放り投げた。  フレディは即座に氷の魔法を唱えようと集中したが、それより早く、炎の渦から白い体がぽん、と飛び出した。小さな翼を少し羽ばたかせただけで、ふわりと強い風が吹いて、魔法の炎はあっという間に消え去ってしまう。フレディもニッキーも息を呑んだ。ニッキーの魔法をこれほど手際よく抑えられる魔導士に出会ったのは、初めてだった。  当のコルムは、ゆっくりと煉瓦の上に降り立って、呑気にため息をついている。 「全く、油断も隙もありはしないな」
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