お世話になります、小鳥先生

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***  瓦礫の片付けはニッキーが一人で行なうこと、フレディは手を出すなという言いつけだったので、てっきり暇になるかと思っていたら、とんでもなかった。瓦礫の片付け以外のすべての用事はフレディがこなすことになったからだ。  寝床の準備は、ここに来るまでの旅で散々野宿をしてきたので良い。幸いなことに近くに小さな洞窟を見つけたので、雨風を凌ぐこともできる。洗濯も、自分と弟の分だけで良いのでこれまでと変わらない。家を修復するための煉瓦等の建材の購入を言いつけられたのも、理解できる。この家を粉砕したのはニッキーだ。そのニッキーを連れて来たのはフレディなのだから、これも仕方がない。  問題は食事だった。  この小鳥、一体どこに入るのか全くわからないが、とんでもない大食漢なのだ。小さな嘴が新手の魔法か何かのようにくわっと開いて料理をのみこんでいく。食べ盛りのフレディとニッキーの食事量を合わせてもまだ足りない。母親直伝の豆と鶏肉のバター煮込み五人前が瞬く間に消え去ったのにはさすがに驚愕した。食費はこの小鳥が出しているので金銭面での文句をつける気はないし、美味い美味いと言って食べてくれること自体は、悪くないのだが。  小さな体にもりもりと大量の肉を詰め込むと、最早小鳥の面影がなくなっている。フレディは怪物でも見ているかのような気分になった。 「この煮込み、バターの風味と玉ねぎの甘味のバランスが絶妙だな。魔法はそれほどでもないが料理の腕は素晴らしいではないか」 「一言余計なんだよ。ケチつけるなら食うんじゃねえって」  蹴り飛ばしてやろうとしたのだが、コルムは素早く羽ばたいて逃げ出した。フレディは舌打ちする。 「俺たちが来るまで食事はどうしてたんだよ。あんたは料理できないんだろ」 「裏山に入ればいくらでも狩りができる。今の季節は美味い木の実も豊富にあるしな」 「じゃあ狩りでもなんでもして来いよ。なんで俺があんたの食事を用意しなきゃいけないんだ」 「うん? 君の弟の面倒を見てやっていることについて、他の対価を要求した方が良いか?」 「なんでもないです」  ニッキーはというと、早々に食事を終えた後、煉瓦の塊を抱えて運んでいる。まるで盗人のような忍び足でそっと歩いていたが、また、ぱりん、と音がして額の六芒星が砕け散った。それと同時に、煉瓦の塊も爆発した。弟の顔まで吹っ飛んだのではないかと心配になったが、砂埃まみれになっただけで済んだらしい。けほけほと咳き込む声がする。 「なあ。あの魔封じ、俺にも使えないか?」 「使えるんじゃないか? 封印魔法の基礎は?」 「習得済み」 「では同じ要領だ。書いてある文字が違うが」  六芒星の隙間に敷き詰められた文字のことだろう。フレディはうねうねとした文字を思い出しながら首を傾げた。 「ああ、それがわからないんだ。なんて書いてあるんだ?」 「古代ヒベルニア語で、『黙れ』と書き連ねてある」 「……え?」  思いの外安易な言葉だったので拍子抜けしてしまった。フレディの目からすれば、とても高尚な紋様に見えたのだが。
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