お世話になります、小鳥先生

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「簡潔でわかりやすいのが一番だ。相手はあれだけ幼いしな」 「あの文字の意味がニッキーには伝わってるってことか?」 「だいたいそういうことだ。ただ、彼自身があの文字を目で見て理解できているわけではない。訴えている相手は彼本人というより、彼の魔の力だからな」 「ふうん。術者と力は独立してるって思想の応用ね」 「馴染みがないか?」 「いや、なんとなくわかる」  フレディはニッキーの様子を見守る。フレディ自身は、自分の力が思い通りにならなかったことがあまりなく、昔は、自分と魔の力が独立したものという考えを理解するのは難しかった。それはそれで非凡な才覚と言えるものだったが、フレディにはその自覚が薄い。  しかし、彼にはあの弟がいる。いくら人から教わってもわからなかったことも、目の前で弟が己の力に振り回され続けている様を見ていれば、嫌でも理解させられた。自己と魔の力は、本来別物なのだと。フレディは運良く、自分の力に見合った魔力を授かっていたにすぎないのだと。 「封じる相手がニッキーだから、簡単な言葉が良いっていうことだよな。つまり、六芒星に書く言葉を相手によって変えるってこと?」 「無論だ。そこは、術者のさじ加減次第だな。相手がご年配で信心深いお方だった場合は、もっと丁寧な文章を書いたほうが効果が高いが……ま、基本は『黙れ』で問題なかろう」  フレディは試しに、普段封印の魔法を使うときと同じように集中を高め、宙に向かって指先で六芒星を描いてみる。すると、ニッキーの額に現れたものと似たような紋様が宙に浮かび上がった。先ほどのコルムのように一瞬で封印を施すには修練が必要だろうが、フレディにもできないことはなさそうだ。 「練習するのは勝手だが、少年の力を凌駕していなければ効果を発揮しないぞ」 「……あっそう」  はっきりと、フレディの力はニッキーに遠く及ばないと言われたも同然である。弟との才能の差は十分にわかっているつもりだったが、多少頭にくるくらいは許してほしい。 「本当にこんなことで制御できるようになるのかね」 「偉そうなことを言うなら君が封じてみろ」 「それができないから、こんなところまで来て頭下げてんだろうが」 「あいにく、頭が下がっているようには見えんぞ」 「あんたがチビすぎるせいじゃねえか?」 「口の減らんクソガキだな」  毒を吐きつつも、五人分の煮込み料理を平らげたおかげか、心なしか表情が穏やかだ。小鳥だが。
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