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「まあ、分類で言えば仮病なだけで。なんというか、よく聞く腫瘍にも真性腫瘍と腫瘍類似疾患がありましてね、腫瘍じゃないのに名前だけついてたりですねえ。例えば、ああ、この乳頭腫とか――」
目の前のパソコンに四角く映し出されたちょびヒゲお医者は参考書を掲げ、至って真面目な顔で眼鏡をくいっと中指であげる。
いやいやいや、どうでもいいのよそれは。乳頭温泉? 行ったことないわ。止まらないお医者の説明に、揺らせば吐き気が止まらない頭を押さえつつ「そうなんですか、知らなかった、さすが~」とまるで合コンのように声だけで相槌を打つ。
「――と、いうことで、仮病というのはちょっと学問的な言い方でして。本当は毛病といいます」
ばばんっ、と効果音がつきそうな勢いでお医者はホワイトボードに「毛病」と書いた。
……なんだって?
「毛病、です!」
「はあああああ?!」
力強いお医者の言葉だけども全然納得できませーん!
「我々は通称ケビョーンと呼んでますがね、あっはっははは」
「あ、あははは、はは」
びょーんです、とか笑ってる場合か。
このお医者、ちょっとダンディーだからってからかいがすぎるんじゃない?!
「驚かれるのも無理はありません、何しろこれは珍病ですからね」
「ちん……え?」
チンビョウです、とお医者は言い直す。やだ恥ずかしい、嫁入り前のうら若き三十路に何言わせるの……じゃなくて!
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