File.1  閏、異星に立つ その1

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File.1  閏、異星に立つ その1

 僕の名は追矢閏(おいやじゅん)、オカルト好きの16歳。  今年の春に宇宙人のとんでもないミスによって、人体改造されて超能力者になり、そのミスの隠蔽のために現地特別捜査官になったが、その後に僕の人生を大きく変える事件が起こる。  事件の事は思い出したくもないので、詳しいことは割愛させてもらうけど、その時にお世話になった少しおっとりした感じのお姉さんである天原照(あまはらてる)さんの勧めと推薦で、本来なら地球という未開の低文明の出身者は入学すら許されない宇宙連邦警察学校に晴れてこの11月より特別転入という形で通うことになった。  宇宙人は人間と違って、精神的・肉体的に成長が早く17歳で警察学校や軍隊に入る事ができるらしく、僕も一念発起して目覚めた超能力を活かして宇宙警察になることにした。  宇宙連邦警察学校のあるシリウス星系惑星ソティスに、照さんの手配で太陽系から恒星間航行用物資輸送艦に乗せてもらった潤は、与えられた船室で学校の案内や宇宙での常識などを勉強していた。  昼は端末、夜は睡眠学習で知識を得た僕は新しく得た宇宙の知識に興奮しつつ、オカルト好きとしては、謎であった宇宙や宇宙人の秘密が明かされていく事に少し寂しさもあった。  オカルトとは謎であるからこそ、色々妄想できて楽しいからである。  閏は勉強以外にも空いた時間には、超能力(ESP)の練習もする。  超能力は宇宙警察学校や警察になった時に、自分を助ける武器になるのは明白であるために、閏は貨物室で超能力練習カリキュラムに基づいて練習を続けていた。  輸送艦はシリウスまでは、貨物は積んでいないので貨物室は空で頑丈にできているために、練習場所としては最適であった。 「今日はこれぐらいでいいかな」  今日の練習を終えた閏が自室に戻って、シャワーで汗を流し部屋に戻ってくると、テーブルに夕食が用意されている。  夕食と言っても輸送艦であるこの船に、食堂などはなく簡単な栄養食であるが、栄養的には問題がない。 「ツク、ご飯の用意、ありがとう」 「キュウ…」  ツクはうさぎ型のサポートロボットで、宇宙人の高度な科学力で作られているために、高性能で器用にいろいろなサポートをしてくれる。  見た目は灰色の兎のきぐるみを装着しているので、とても可愛らしい姿をしているが、目は少しジト目気味の黒目で鳴き声も少し元気がないので、ロボットなのにどことなく影があるうさぎに見えるが高性能な人工知能を搭載しているためにサポートは問題なくしてくれる。  ツクは元々お世話になった人のモノで、始めた会った時に何故か閏に懐いたので、その人が学校に通う間、自分のお世話係にと貸してくれたのであった。  閏も人付き合いが苦手で少し影がある印象を受けるので、そこを感じ取って仲間だと思ったのかもしれない、ロボットではあるが…  前足で器用に夕食を用意してくれたツクが、ビョンビョン跳ねてベッドの上に移動すると、  見守るように夕食を食べる閏を見ている。  こうして、ツクがいるおかげで閏は、シリウスに着くまで寂しい思いをせずに過ごすことが出来た。  貨物船内部は重力が発生しており、更に貨物船であるために窓もついていないので、楽しみにしていた無重力も星々の大海も体感することができず、宇宙を旅している実感があまり沸かない。 「ツク~、僕もう耐えられないよ~。青い空を見たいよ~、お日様の光を浴びたいよ~」  半月ほど窓のない船内で過ごした閏は精神的に辛くなってきて、地球で過ごしていた頃、インドア派で外出も最低限しかしなかった事を棚に上げて外を恋しがる。 「キュウ…」  ツクはそんな閏の頭を前足で撫でながら慰めてくれる。  慰めながらツクはヒーリング音楽を流し、ついでにマイナスイオンも発生させて、閏の心を癒やしてくれる。 「ツク…ありがとう…。ツクってモフモフしているね…」  閏はツクを撫でて、更に癒やされる。  次の日― 「もうこんな食事嫌だ~! お肉が食べたいよ~!!」  ここ半月ばかり、栄養食品だけで食事をおこなってきた閏は普通の食事、特に肉が食べたくなる。 「兎って、食べられるよね…」 「キュウ…!?」  閏はボソリと呟いたが、ツクの大きな耳の中に内蔵されている集音器は、その言葉を聞き逃さず危険を感じ取る。 「ツクって美味しそうだよね。一口食べていい?」 「キュウ!!?」  精神的に追い詰められている閏は、ツクがロボットであることを忘れるくらい普通の食事を渇望して、昨日慰めてくれた事は忘れてツクを追いかけ回す。 「キュウ~!!!」  普段ダウナー気味のツクも、流石に危険を感じていつもより大きな声で鳴きながら船内を逃げ回る。  そうこうしているうちに、貨物船はワープドライブを数回繰り返し、地球を出航したから約1ヶ月でシリウス星系にある惑星ソティスに到着する。  貨物船を操艦していた大きめの白色兎ロボが、船室まで来て到着したことを伝えにきてくれた。 「うわーい、やったー! やっと、この密閉空間から解放されるよ~!」  一ヶ月間の苦行のような船内での生活からの解放に、普段ダウナー気味の閏も思わずテンションが上がってしまい、普段ではありえない大きな声を出し、その場でくるくると回転しながら喜びを表現する。 「じゃあ、行こうかツク」 「キュウ…」  閏が荷物の入った鞄を持つとツクはピョンと跳躍して肩に乗ってくる。  スキップで狭い船内廊下を搭乗口まで進み、接続された宇宙船用のボーディング・ブリッジ内を更に進み船外に出ると閏の目の前には、宇宙港のロビーの景色が広がる。  宇宙港内部も重力制御装置で1Gに保たれており、ロビーには色々な姿をした大勢の宇宙人達がいて、閏は始めて自分が地球を飛び出して宇宙に来たことを実感する。  爬虫類や昆虫のような姿をした者、色々な種類の獣の姿をした者など様々で、人間に近い姿をしていても、肌の色が違ったり、角のようなモノが生えていたり、耳の形が違ったり、多種多様に進化した宇宙人達がいる。  色々な宇宙人を見て、もう少し驚くなり何なりすると思っていたが、不思議とこの光景を受け入れている。 (オカルト番組や雑誌で予想図を見て、慣れたのかな?)  閏はそう思いながら入星審査を受けるために、審査官がいるカウンターに向かう。  入星審査を無事受けようと列に並び待つこと数十分、自分の番になった閏は無事審査を済まして、入国ゲートを潜り軌道エレベーターで地上まで降り惑星ソティスに降り立つ。  軌道エレベーターから各都市へは併設された駅から、透明なチューブの中を高速で走るリニアモーターカーに乗車して行く。 「ツク~、凄く速いね~。速すぎて、景色が全然見えないけど~」 「キュウ…」  苦行だった輸送艦からの解放感と始めての異星に、変にテンションが上がった閏はすっかりお上りさんみたいになって、車内の窓から外の景色を見ながらはしゃいでいた。  閏の目的地である宇宙連邦警察学校は、山間部にある宇宙連邦が運営する教育育成施設が集まっている学園都市にあり、そこに向かうには一番近くにある都市『キュオン』から、更にバスに乗りかえる必要がある。  キュオンでリニアモーターカーから降車し、地図データとリンクしたツクにナビして貰いながら、学園都市行きのバス停に向かう。 「今気づいたけど、この星の空には太陽が2つあるんだね…」 「キュウ…」  シリウスは連星なので惑星ソティスの地上からは太陽は2つ見え、地球育ちの閏は不思議な感覚を覚える。  バス停に着いて時刻表を見ると暫く時間に余裕があったので、閏はこの星に到着してからずっと考えていた事を実行することにした。 「ツク、僕はお肉が食べたい! この辺りにお肉が食べられるお店はないかな?」 「キュウ…」 「わかっているよ、照さんから貰ったお金の無駄使いはしないよ。コンビニチキンみたいなのでいいから、僕は食べたいよ!」  ツクはまた追いかけられるのも嫌なので、地図検索で近くのコンビニを探して、案内することにする。  コンビニの近くまで到着するとその前で女の子1人に対して、10人の男が絡んでいるのが見えた。 「綺麗な娘だな… ノルディックエイリンかな? それともプレアデス星人かな?」  その少女は人間とほぼ同じ外見で、綺麗な肩までの金髪と白い肌、そして青い目を持つ一見すると白人そのもので、『ノルディックエイリアン』の特徴に一致する。  女性型のノルディックエイリアンは、高い性的魅力を持っていると言われており、その少女の整った顔立ちと姿はまさしくその特徴にも当てはまる。  閏は肩に乗っているツクに、助けるべきか相談する。  こちらは1人、対する相手は10人、超能力が使えるとはいえ相手は宇宙人であり、その戦闘能力は未知数であり、助けるつもりが返り討ちとなる可能性もあり、閏が躊躇してしまうのも無理はない。 「ツク、どうしよう…」 「キュウ…」  ツクは閏の助ける意志の背中を押してくる。 「そうだよね、助けるべきだよね。僕はこれから宇宙警察を目指すのだから、困っている人を助けないとだよね!」 「キュウ…」  ツクは頷き頑張れと応援してくる。  普段の潤ならこのような危険な事には関わらないのだが、輸送艦からの解放と初めての異星でテンションが変に上がってしまい助けようという気持ちになってしまう。  ※リニアモーターカー・コンビニ  異星なの恐らく別の名称であるが、造語が増えてもややこしくなるので、本作では解りやすく名称は既存のモノを使用します。
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