テニス部戦争 第二夜 もんも現る

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テニス部戦争 第二夜 もんも現る

「走れ、こらぁぁあ!! うらぁ、走れえぇぇ!!!」  ヤ○ザこと岡田先生の怒号がグラウンド中に響き渡っていました。  おそらく、 『走れメロス』  が、 『走れ、こらぁぁあ!! うらぁ、走れえぇぇ!!! メロス!』  だったら、メロスは走らなかったことでしょう。  セリヌンティウス、良かったね。  ゆうてますけども。  いや、そんな場合じゃない。  オカダ(あえてここからはこの名称で)がラケットを持って追いかけてきました。  逃げるように走り出す男子テニス部員たち。  まるで牧羊犬に追われる羊の群れ。  合同結婚式はあるのだろうか。そんなことを考えていた15分前に戻りたい。  今からドラゴンボール集められないだろうか。  どうしよう、帰って一休さん観たい。助けて、さよちゃん。  そんなことを考えてる間に最後尾を走っていました。すぐ後ろにオカダ。ラケットを振り回しております。  走れ、木緑!  できれば代わりに走ってくれ、メロス!  わたしと同じく最後尾軍団を走る集団の目は死んでいました。  でっこ。  みぞこ。  しゃも。  いわっちょ。  みさこう。  あだ名を見るだけでもポンコツ軍団でございます。  ちなみに、この頃のわたしのあだ名はチョロ。  スーパー戦隊だったら2週目に全滅してそうなあだ名軍団。初日から追い詰められております。  ふと、先頭集団に目を向けると、3年生たちに混じって、我ら1年生が一人走っておりました。森本くんこと、もんも。  切れ長の目で無口なクールキャラながら、運動神経は抜群。小学校の頃から、もんもは人をあだ名で呼びませんでした。必ず呼び捨て(そもそも喋んないけど)。でも、何故かわたしだけには珍しくぼそりと「チロ」とあだ名で呼んでくることがありました。みんなは「チョロ」なのに、もんもは「チロ」。何らかのこだわりがあったのでしょうか。どーでも良いけど(・∀・)  もんも、すげえ。  そう最後尾軍団が見惚れている間に、オカダに追いつかれました。 「ケツ出せっ!」  ケツラケットという広辞苑を引いても載っていない言葉が、今この瞬間に誕生しました。  ぱしーーーーん!!!  とにかく、痛い。  現在では考えられませんが、当時はこんなの当たり前でした。  しゃもがここで泣き出しました。 「痛い。辛い」  そ、そだね(。•́︿•̀。)  シンプルな感想だね(。•́︿•̀。)  ちなみに、しゃもは一番楽そうだからという理由でテニス部に入ったため、ショックが大きかったのでしょう。あと半周走る間、ずっと泣いておりました。 「なんじゃい、この部!」  下を向いて走るわたしたちの中で、一人が怒りの声を挙げました。  みぞこ。体格が良く、まるでジャイアンのような見た目のみぞこは、かなり怒っていました。  ちなみに、みぞこの入部理由は、野球部で野球するほどじゃないけど、テニス部入ってラケットで野球するくらいはやりたいから。  とんでもない志望理由でございます。  広告代理店での就職面接で、「金融業界へ行くほどではないけど、広告業界で銀行みたいなことしたいから」と言ってるのと同じでございます(・∀・)  一周を走り終えると、すさかず「集合っ!」とオカダの号令がかかりました。   「俺に追いつかれた奴らがおる。もう一周っ! おらぁ、走れっっ!!」  メロス。  1800円で走ってくれんかえ。  おらおらおらぁっと、空条承太郎を彷彿とさせる叫び声で追ってくるオカダ。  必死で逃げる、わたしことチョロ、でっこ、みぞこ、しゃも、いわっちょ、みさこう。しゃもの表情は、この世の終わりのようでした。  オラオラオラオラオラオラァ!!  空条承太郎の掛け声で追い回してくる牧羊犬ことオカダ。  逃げる羊軍団。  ンメエェェェェエエエ。 34cacac3-b70a-4f9a-9582-c4044f620a36  大丈夫でしょうか、このエッセイ(・∀・)?  ここまで無事に読まれてますか、皆さん(・∀・)?  というか、これはエッセイなのでしょうか?    はい。  2周走り終え、わたしたちは膝に手をついておりました。  ぜは、ぜはぁ。何故か最後尾軍団の方が息が荒い不思議。   「今日はこんくらいにしといたらぁ。キャプテンは山口か。お前で後はやっとけ。また明日から本気でしごいたらぁ」  小学校で色んなRPGゲームをやりました。ひどい敵のボスキャラがたくさんいました。 そのボスキャラたちは実は仲間だったんじゃないかと思えるほど、オカダは悪魔でした。  部長の山口先輩が参ったような表情で部員を集めました。  ここで、わたしたち1年生の中で小さな事件が起こりました。後々のテニス部戦争のきっかけとなる小さな事件。  てくてくと、わたしたちのもとに怒りを滲ませたもんもが歩いてきました。 「おい、中西(でっこのこと)たち、先輩たちに謝れ」  もんもがそう言って、顎でわたしたちを先輩たちの方へと向けたのです。    ここで、このエッセイを読む前提事項をお伝えしておきましょう。  もんもは、正しい。  そして、このエッセイの作者こと山城木緑(チョロ)が所属する最後尾軍団(通称でっこ軍団)は、正しくない。  まさかの主人公が正しくないお話なのです。  これから、たくさんの正しいもんもと、明らかに正しくない主人公のわたしたち(でっこ軍団)が出てきます。  主人公が正しくないという、珍しいエッセイをお楽しみください。  というわけで、  先輩たちに示しがつかないと、謝らせようとするもんも。おそらく、先輩たちに「よかよか」と言ってもらい、1年生の印象を良くすべきだと、もんもは考えていたのでしょう。  もんも、正解!  ですが、でっこ軍団はまだ心を小学校に置いてきたままなのか、あり得ない答えを出すのでした。  ずいっと、みぞこが歩み寄りました。 「先頭がフライングしとったけんやろもん」  情けなし。  あぁ、情けなし、でっこ軍団。  わたしは言いました。 「そうだそうだ!」  と。  クールなもんもは、前髪をかき上げながら言いました。 「お前らはもういい」  なんと悲しきお言葉。同学年に見捨てられとります。  ここから、でっこ軍団のもんもへの戦闘心が芽生えてしまいました。 「あいつ、先輩に好かれようとしとう」 「前髪かき上げて女子にアピールしとう」 「お前が謝れ」 「お茶飲みたい」 「女子がおらんくなっとう」  恐るべし、低レベルのでっこ軍団。  怒涛のテニス部初日が終わり、しゃもが何故か帰り道で泣いていました。  第二夜、おしまい(・∀・)  ちなみに、第一夜でブラックモンブランを福岡のアイスと書いてしまいましたが、小池さんとイノウエさんに佐賀のアイスと教えてもらいました_(._.)_  そうだったのかっ!
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