おら、カラオケにいきたい 後編

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おら、カラオケにいきたい 後編

 人生賭けてる氷室冴子青春文学賞の発表日に、まさかのこのエッセイ更新する人(⁠・⁠∀⁠・⁠)  はい。  一応ご報告を。  氷室冴子青春文学賞。  最終候補に選んでいただきました。  もうね、ありがたいです。  震えます。恋しくて恋しくて震えますよね。  でも、なにも成果はありません。それが事実。また今日から挑戦スタートです。いただいた貴重なご意見をもとに変えていきたいと思います! 頑張るぞ!  はい。  くだらんエッセイに戻ります(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)  三年一組は来たる合唱コンクールにむけて日々がんばっていました。  合唱リーダーはクラスの中心のオオトちゃんとたっちゃん。  盛り上げながら締めるところは締めるオオトちゃんと、オネエキャラながら運動神経バツグンで頭も強烈に良い(卒業後ラ・サールいきました)癒し系のたっちゃん。  この二人を中心に三年一組は今日も歌います。  指揮者は課題曲が元気者の(じん)、自由曲が痛がり屋のしゃも(以前のエッセイにも出てきました)。  伴奏はおしとやかな森さんと中村さんが担っていました。   「もっと声出そうぜ!」  オオトちゃんがクラスを奮い立たせます。 「男子、女子置いてっちゃだめ」  オネエ言葉で指示を送るたっちゃん。  三年一組の士気は日に日に高まっていました。  が、指揮者の仁としゃもの表情がいまいちパッとしません。 「どうしたとや? 仁、しゃも。指揮者が元気ださないかんばい」  オオトちゃんが二人へ怒るような口調を向けました。  仁が言いにくそうに、しゃもは首をひねりながら、二人が声を合わせました。 「あんま言いたくないっちゃけど、変な声が混じっとう」  まるでサスペンスドラマのように二人の指揮者へ顔を向ける三年一組諸君。  自分が音痴だと知らないこの頃のわたくしことちろくんも、内藤剛志ばりの目線を仁としゃもに向けました。 「なんか……ホーミーみたいな声がひとつ混じっとうと」  しゃもが寂しそうにそう言いました。  ホーミー  それは、モンゴルなどに伝わる基音と倍音を同時発声する倍音唱法。いうたら羊のメ゛エ゛エエみたいな感じ。  もちろん、合唱コンクールには不要な歌い方です。 「誰や」  オオトちゃんの低いトーンに緊張を走らせる三年一組。  ふと、たっちゃんがやさしく口を開きました。 「ちろくん、色んな声につられとうかもね」 ( ̄□ ̄;)!! え 俺? ホーミー、俺( ̄□ ̄;)??  わたくし、綺麗に歌っていると思っておりました。へたしたらホイットニー・ヒューストンより上手いのでは、と。  まさかのホーミー犯容疑。  小さな体(中3まで小学生にしか見えないちびっこでした)で一生懸命歌ってたのに。  容疑者ちろくんのムダな献身。  三年一組はレコーダーを用意して録音してみました。一番真ん中の下段に陣取るちろくん。右側は男子のバスやアルト。左側は女子のソプラノのその真ん中でした。レコーダーがわたしの目の前に置かれています。  歌い終え、みんなで聞いてみました。  ……  ……  ……  なんだ。  なんだこの一人だけから発せられている部族系の歌声は。 「ちろくん、みんなの声を混ぜてミックスジュースみたいになっとうね」  そうですね(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠)  クラスで一番小さくかわいい顔をしていたわたし。三年一組のマスコット的存在でした。何をやっても許されておりました。  ですが、合唱コンクールはみんなの情熱ほとばしる大イベントです。  オオトちゃんがわたしへ歩み寄りました。 「ちろくんっ」  オオトちゃんがわたしの頬を両側から、むにっとやりました。 「うん」 「ちろくんは」 「うん」 「めっちゃおっきく口開けて」 「うん」 「歌わんどこ」  戦力外通告( ̄□ ̄;)!!  毎年末に東山紀之が1オクターブ下のミとファの音だけでナレーションするあの戦力外通告です。  まさかの合唱コンクール戦力外通告。  「合唱コンクール 戦力外通告」で検索しましたがよくわからんのしか出てきませんでした。  昼休み、放課後と、声を枯らしながら、時にはぶつかり合い泣きながら、三年一組は練習に励みました。声を枯らし、涙を滲ませながら毎日がんばっていました。  その中心で全力の口パクを練習するちろくん。  仁としゃもの指揮が生き生きしているのを口パクしながら見守るちろくん。    いざ、三年一組は本番を迎えました。  課題曲の『大地讃頌』は完璧なデキ。先に歌った二組より良い! ちろくんの口パクが効いておりました!  そして、自由曲。  緊張の面持ちでしゃもが指揮台に上がります。  最難関曲、木琴。  みんなで毎日毎日練習してきました。  この自由曲で二組と十組を上回るんだ。  そんな緊張感に包まれていました。  バッ  しゃもが指揮棒を上げ、三年一組が合唱の体勢をとります。    最後の曲です。  わたし、思いました。  歌いたい。  口パクホーミー犯ことちろくん。  気持ちが昂ぶっておりました。  ゆっくりとしゃもの指揮棒が揺れ始めます。  出だし、完璧。体育館がざわつくほどでした。  そしてちろくんの昂りも最高潮へ。  口パクだった口の奥からついに声が出始めたのです。  目をつぶって指揮に集中していたしゃもが目を開けました。  一生懸命歌う三年一組。その中心でホーミーを叫ぶちろくん。  一生見ることのないだろう、しゃものわたしへ向けたバツ印の指揮。  中村さんが最後の鍵盤を叩いて三年一組の合唱は終わりました。みんなの充実した表情の中でしゃもだけがすこしの苦笑いを浮かべていました(⁠・⁠∀⁠・⁠)  結局、三年一組は最優秀賞とはいきませんでしたが、優秀賞を獲得しました。  しゃもだけが知っているホーミー犯さえ口パクを通せば最優秀賞だったかもしれません。  ということで、カラオケにいきたいです(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠) おちまい
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