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街のゲームセンターには『オンライン早撃ち』の筐体がある。将斗は下校時、そこに立ち寄り一回だけ対戦をする。それは練習でもあるが将斗は一日一回と回数を決めていた。勉強に打ち込んでいたせいか集中力も上がり、中一の頃はちょくちょく負けていたが、今では負けることはほとんどなくなった。だが、タイムは0.003秒からなかなか伸びない。大会に出れば間違いなく上位には食い込めるが、これでは山田直也には勝てない。勝てないまでも引き分けるには0.001秒まで早く撃たなければならない。悶々としながらも一日一回を守り、将斗は早々にゲームセンターをあとにして自宅で勉強に打ち込む。
あまりのストイックさに周りの友人は一人二人と去り、いつの間にか将斗は学校でも一人でいることが多い。気にはならなかった。周りに自らの夢を語ったとしても大半は笑い飛ばすと分かっていたし、わざわざ分かってもらおうとも思わなかった。夢を追うとは孤独な戦いなのだと将斗は認識していた。馴れ合いなど必要ない。ただ、誰よりも速いタイムに挑戦したい。その一心だけで黙々と勉学と早撃ちの腕を磨くのだ。
「やった……」
一学期の中間テストの結果は中一の最後の試験より二十位上位にした。だが、将斗の成績向上を褒めるクラスメイトなどいない。それでもいい。これでやっと夢を追える。将斗は、試験の結果をその晩、父に見せると父は困ったように笑った。
「本当にやるとはな。あの勉強嫌いが」
「やりたいことをやるために頑張ったんだよ! 約束守ってよ! 」
そう叫んだ将斗の前から父は一瞬立ち去り、とある箱を抱えてまた現れた。
「三十位あげろは、ただ発破かけただけなんだけどな。買ってはあったんだよ」
「嘘……」
父が抱えていたのは『オンライン早撃ち』のモデルガンの箱。将斗は震える手でそれを受け取った。
「父さん、ありがとう! 」
「ああ。だが、勉強は怠るなよ。次の約束はそれだ」
「もちろん約束する! 」
将斗はそう叫んで自室にこもり、早速オンラインを繋ぎモデルガンを手に対戦を開始する。今までは筐体のモデルガンしか持ったことしかなかった。これからは父が買ってくれたこのモデルガンが愛用となる。早く対戦をしたく、胸の高鳴りが抑えられなかった。
将斗の初の対戦相手は名前も知らない国のユーザーだった。
将斗はモデルガンを持ち、開始のコールを待つ。コールが鳴り、将斗の指は素早く動く。
PCから相手のため息が聞こえる。間違いなく勝ったが、相手が驚いたのは将斗のタイム。0.002秒を記録していた。
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