オンライン早撃ち

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オンライン早撃ち

 パン!! 乾いた音が画面から放たれる。そのゲームに必要なのはオンライン環境と専用のモデルガン。e-Sportsが市民権を得てから、世界は感染症の時代にオンラインの技術を急速に進化させた。その技術はゲーム開発にも活かされ、一部の熱狂的なファンを獲得したゲームに『オンライン早撃ち』がある。  開始するなり画面の相手をモデルガンで早く撃つというだけの至ってシンプルなゲームだ。シンプルだからこそ奥が深い。今年中二になる田中将斗は、オンライン中継される『オンライン早撃ち』の試合に熱を込めて見つめていた。 「勝者!山田直也ーー!! 」 「すげーー!! 三連覇だ!! 」  『オンライン早撃ち』の世界大会で日本人が三連覇を遂げたのを将斗は、PCの画面で目の当たりにする。  ただ早く撃つという単純作業で山田直也という日本人は世界の頂点にいるのだ。早撃ちまでの時間はゲーム画面で分かるが、山田直也は三年連続で0.001秒を記録している。まさに超人的だ。将斗の胸にも世界一の男と対峙してみたい夢がある。  だが、『オンライン早撃ち』のモデルガンは安くはない。大会は山田直也がトロフィーを受け取ったところでオンライン中継は終わった。将斗は、PCの画面を落として、すぐさまに教科書とノートを開く。『オンライン早撃ち』のモデルガンが欲しい将斗は、父と学年順位を三十位あげたら買ってもらう約束をしている。  いつか自分も大会に参加したい。その想いだけで好きでもない勉強をする。父との約束は中一の頃から始まっているが、この一年で上がった順位は二十。あと十が遠い。  ただ諦める気はない。将斗が追いつきたい山田直也はニ連覇をしたときのどうして優勝できたと思いますか? のインタビューで『ただ努力を重ねました』と笑顔で言っていた。目標とするべき世界一が努力したと宣言するならば将斗と努力を重ねるしかない。まずは成績を上げる。その見返りが山田直也と同じ舞台に立つことならば、努力も苦にならない。世界一まで届くかどうかはまだ分からないが、昔から瞬発力にだけは自信がある。山田直也以上の努力をすればきっと並べるはずだ。そう信じていた。  中二の挑戦は始まったばかり。できるならば一学期の中間で結果を残したい。大会は夏休みだ。去年は駄目だったが今年こそはと将斗は静かに闘志を燃やしていた。
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