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豊田が雲居アイリの存在を認識したのは、その時が初めてだった。突き付けられたスマホ、その長方形の窓の中に、彼女は居た。ピンク色の髪、虹色の瞳、如何にも現実離れした容姿をしていた。とりわけ、オタク的趣味とは無縁な豊田には、彼女の姿は奇天烈なものに感じられた。彼女は、小さな画面の中で、大げさに身体を動かしながら、此方に向かって話しかけている。
『はろー!はろはろっ。雲の中からコンニチハー!雲の中でも、気持ちはハレバレ。アイリは皆んなの心のアイドル。画面の前の皆んな、元気してるんっ⁉︎ どうもーっ、完全☆バーチャルアイドル、雲居アイリでーっす。』
「……頭イカれてんのか、この女。」
──それが、豊田が最初にアイリを見た時の、率直な感想だった。
全ての始まりは、このわずか数分前に遡る。
久々の休日、豊田は、年来の友人ある布野と共に、食事をしていた。途中、仕事関係の着信があったので、暫し店外に出て対応をした後、再び席に戻ると、布野は何やらスマホの画面を食い入るように見つめ、含み笑いをしていた。夢中になるあまり、此方が戻って来たのにも気付いていないようだ。
「おい。」
声をかけると、布野はビクッと肩を振るわせ、此方を向いた。
「あ、ごめん。」
「いや、こっちこそ。待たせてごめんな。なに見てんの?」
尋ねると、布野は答えるのに少し躊躇いがある様子だった。けれども、やがて照れ臭そうに言った。
「……Vtuner。」
「ブイ、チューナー?……ああ、あれな。なんかバーチャルの、アニメっつうか、そんな感じの、キャラ?あれに合わせながら、配信するっていう、あれだ。」
「そ、そ!それだよ。」
ネット文化に疎い豊田でさえも、一応その存在は知っていた。それ程に、今やVtunerとは、名の知れた存在だ。
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