空気清浄機がいます

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空気清浄機を買った。 何も特別なことはない。 だれもが知っている普通の空気清浄機だ。 ただ1つ違うのは、簡単な会話が出来ること…と言っても、オウム返しをするだけ。 しかし空気清浄機を購入した日から、僕の人生は確実に変わった。 「ただいまー!」 「おかえりなさい。」 「お腹が空いた~。」 「おなかが すきましたね。」 「今日は仕事が大変でさぁ。本当に疲れちゃったよ。」 「ほんとうに つかれましたね。」 「明日は大事な商談があるんだ。上手くいくといいなぁ。」 「うまくいくと いいですね。」 空気清浄機の発する言葉。 それは心地よい受容、共感、傾聴。 空気清浄機と会話をしていると、僕はまるで母親に抱きしめられているような気持ちになる。 僕は他人と接触するのが嫌いになった。 あいつらは、五月蝿くデリカシーが無い嘘つきだ。さらに自分の意見ばかりを押し付けてくる。 …疲れる。 いつしか僕は恋人、友人、家族と疎遠になった。 仕事も辞めた。 「人間って言ってることと、やってることがバラバラなんだよ…。どうして、人はあんなに汚いんだろう。」 「ひとは きたないですね。」 「人間は嘘つきで、僕を裏切る。」 「あなたを うらぎりますね。」 それは心地よい受容、共感、傾聴。 「僕は人間でいるのが心底嫌になった。死にたい。」 「しにたいですね。」 「僕が死んだら、空気清浄機に生まれ変わるんだ。」 「くうきせいじょうきに うまれかわりましょうね。」 ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーー 生ゴミの腐敗した臭いが漂っている。 狭い部屋で空気清浄機だけが、正常に働いていた。
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