天正10年6月2日

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「はは」  乾いた笑いが身体の奥から溢れて唇から迸る。まるで命の残り香のようにふわりと空気に飲み込まれて消える。喉が渇いて眩暈がする。きっともう直ぐ終焉だ。  生まれ変わったらまたお前に逢いたいな。今度はお前にこんなこと頼まなくていいようにするからさ。  違うな。俺が殺されてきっと世界は纏まる。光秀も家康もいる。  次に俺がこの世に生を受けることがあって、もしもお前に出逢えたなら、次は一緒に笑って暮らせるだろう。  燃えてしまう前に腹を切らなければ。  きらりと輝く懐剣に映る己は、子どものような表情で思わず笑いが零れてしまう。これで終わる。やっと終えられる。  じわ、と生暖かい何かが零れる。息が苦しい。痛みはない。ただ思考がゆらりと透明になっていく。消え入りそうな意識の端で小さく祈る。  願わくば。次の世も光秀と出逢えますように。  そうして、あの時はごめんとちゃんと謝れますように。  俺を殺してくれてありがとうとお礼を言えますように――……、
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