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巧以外に抱かれるなら、俺は死ぬしかなかった。 どうしてこうも俺達は分かり合ってしまっているのだろう。毎日すれ違いなのに、やっぱり俺にはこいつしかいないんだ。 その時マスターの声がする。 「歩君、行っといでよ」 マスターはしゃがんでいる俺を立たせてくれた。とっくにばれていたのだ。 「歩───」 「ごめん。ちょっと前から聞いてた」 吐き気を我慢して、俺はふらふらと出て行く。 大谷を一瞥し、俺はぺこりと頭を下げた。 「管理されるのは嫌です。俺はΩの呪縛からとっくに逃げて来たから。巧と一緒に生きてゆきます」 「…罪、ですよ」 辛辣に言う大谷に、マスターが口を出した。 「罪、って言うのは────抗えない事、じゃないですか」 すると伸子が呟く。 「斎藤局長…」 大谷は目を丸くした。 「俺はこの子たち、大好きですよ。運命に抗って、もがいて…ついつい応援したくなります」 「斎藤局長?一体貴方が何故ここに…」 俺と巧は目を合わせ、マスターを見つめた。 「俺も昔は公務員で種族の管理が必要と思っていたこともあったけど…でも人間的じゃない。上司に逆らって、仕事辞めて…この子たちに会ってさ。元気づけられましたよ。俺のやったことは間違ってなかった、って」 伸子と大谷は、マスターの事を知っているようだった。 「元同僚と言えども…こんなにも立場が違ってしまうとはね」 大谷が言うとはは、とマスターは笑う。 「悪くないでしょう?今の俺は自由で、何にも縛られない。αの奥さんには逃げられちゃったけど。まだ離婚はしてないからね!」 マスターは嬉しそうに笑った。 大谷と伸子は、何となく納得したようだった。 考えは違うけど、元同僚がこんなにも楽しそうに生きているのは、嬉しいのかもしれない。 「斎藤局長」 「もう局長じゃないよ」 苦笑するマスターに、大谷は言った。 「私は私の考えで種族の管理を続けますよ。でも」 伸子が口を出した。 「本人の考えが一番、恭一」 伸子に窘められ、大谷の発言は少し色を変えてきた。 「…少しは考えていきます、本人たちの気持ちを」 巧はクスッと笑った。それから、ふらつく俺を支えてくれた。それを見て、伸子が呟いた。 「…この人────妊娠してる」 どうしてこの伸子という女はこんなに勘がいいのだろう。ここに来てしまった自分を呪うしかない。 俺は何と言っていいか分からず掌で顔を覆った。
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