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「おう、話には聞いていたがよ…なんだ、オメーがたくちゃんのコレか」 田町が下品に小指を出すのを見て、巧が明らかに不快な顔をする。 「じーさんやめてくれよ、その言い方」 「いや、その」 何と言っていいか分からず、俺は戸惑いながら椅子に座った。 「何か久しぶりだ、な」 少し照れながら言う巧。本当に久しぶりに話した、と思う。俺達の関係を知っている店長に、感謝したいと思った。何日もすれ違っていると、本当に自分が好きだったのか、何なのか分からなくなっていく。でも今、隣で顔を合わせてみると、やっぱり俺が好きなのはコイツだと確信する。毎日同じ家で生活しているのに。俺は何て馬鹿なのだろう。 何度も何度も、俺はコイツに恋をする。 「そうだな…」 自然と笑いが込み上げて来るのを、何だよ、と膨れたように巧は呟いた。少し顔が赤い。巧も俺と同じように思っているのだろうか。 「若いっていいなあ。俺だって若ェ頃はよう…」 バーボンのグラスを片手に、田町は饒舌に話し始める。可愛い奥さんの事、娘が生まれたこと、でも家庭そっちのけで働いてきたこと… 「じーさんもそれなりに苦労してんだな」 「ったりめーよ。お前らはこれからだな。何でもできる、二人で信じていればよ」 信じる… 俺は巧を信じているのだろうか。そして、巧は… 「はは。そうだな、俺達これからだもんな」 ちら、と流れて来る視線が痛い。久しぶりに巧に会って、俺は多分酷く欲情しているのだろう。巧がそれに気づいてしまっている。どうしよう。勤務中にこんなこと、なったことが無かった。発作ではないが、この発情ホルモンがばれると痛い目に遭う。抑える薬を、飲んで来ないと仕事にならない。 「すみません…どうぞごゆっくりなさってください。巧をよろしくお願いします」 俺は早々に席を立つ。早くしないと、間に合わなくなりそうだった。 「マスター、すみません」 どうしたの、とマスターが言う。俺は正直に自分の事を話した。 「すみません、もしかしたら明日あたり、俺発作かもしれません。少し、薬を飲んできてもいいですか。ちょっと発情ホルモンが漏れてきてるかもしれない」 マスターが俺の頬に手を当てる。 「ホントだ、少し熱いね。いいよ、薬飲んで少し裏で休んできなよ」 「…ありがとうございます」
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