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俺は下を向いて、足早に勝手口から出て行く。裏にある休憩部屋兼喫煙部屋で、カバンから発作抑制薬を取り出した。 こんなことが起こるのか、と驚きを隠せない中、俺は薬をシートから出す。巧がトリガーなのだ。俺にとって、巧はそういう存在なのだ。今まで巧と関わっていなかった時にはそんな兆候は無かった。 「参ったな…」 こんなに自分を抑えられないのか、と思うと怖くもなる。巧に触れたくて、触りたくて。でも学生でもない俺達は、稼がないと生きていけない。自分の仕事をこなさないのに、のうのうと生きていくのは嫌だ。そのためにこんなに巧に触れられなくなるとは思っていなかったけれど。 煙草に火を付けて、ふう、と息を吐く。 俺はこんなに近くにいる巧に、今でも恋しているのか。近くても、遠くても、結局この慕情は変わらないのか。そう思うと滑稽でもあった。 「歩」 突然声がして俺は振り向く。入り口に立っているのは巧だった。 「お前、どうしたの」 俺が言うと、巧はすぐ返してきた。 「こっちの台詞だっての。お前こそ、何やってんの。発作来ちゃった感じ」 「うん、来そうだな、って」 「もう薬飲んだのかよ」 「いや、これからー」 そういう巧の腕に、俺はふわりと包まれた。 バイクのオイルの匂い。 巧が着ているつなぎから、ほんのりと香るその匂いは、自分の知らない仕事をしている巧を想像させた。 「…会いたかったんだ」 ふと漏れたその言葉を、自分の言葉かと思い違うほど、俺達は同じことを考えていたのか、と思う。 「毎日会ってるじゃねーか」 俺が笑うと、巧は真剣な表情で俺を見つめた。 「足りねーよ。あんな…隣に居たらさ。どれだけ巧に触れてないと思ってんの」 胸が熱い。俺達はこんなに近くに居ながら、これほどお互いを強く求めていたのか。すれ違いの毎日では、全くと言っていい程分からないこともあるものだ。 「まだ薬…飲んでねーんだろ」 「うん」 「俺もう、ダメだ。我慢できねェ…」 そう言って重なる巧の唇。それが思ったよりも優しくて、俺は戸惑う。もっと強く、激しく求められるかと思っていた。でも全く逆だ。何だろう。優しく、ふわりと羽のように触れて来る巧。一体どうしたのだろう。 「う…んっ…なにっ…」 「ん、どーしたの歩」 「何か…いつもより優しい、なんで」
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