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 冷たい風は俺の肌を通り抜けて、まるで知らんぷりをするようにきつく吹き抜けていく。  目の前の雪の塊を、掬っては投げ出す。  ここ数日はそれが日課になっていた。 毎日飽きもせず降る雪。開店するまでに雪かきをしておかなければ客足が遠のく。遅い出勤ではあるが、開店するまでにこの雪の量を除かなければいけないとなると毎日が億劫ではある。 紅い煉瓦の壁の端っこに、俺は雪を載せて山を作る。 ふう、と一息つく。それもそのはず、この量を一人で雪かきをする、なんて正気の沙汰ではない。 うっすらと額には汗が滲んでいた。 「お、やるねえ歩君。もうすぐ終わるかな。俺も手伝うよ~」 この店のマスターは佐藤、という人で、齢三十を超えている。うだつの上がらない公務員だったようだが、脱サラして、この店を建てた、ということだった。 既婚者でβ、しかし嫁はもうとっくに別居しており現在はほぼ一人で生活しているようだ。酒が入ると嫁が恋しくて泣くという、少し変わった人物でもある。 俺がこの店で働き始めてもう三か月になる。 まだ未成年だ、ということを言ってはいない。しかし、なんとなくマスターも分かってはいるようだ。敢えて、触れないようにしているのかもしれない。店長のそんなところは、優しさなのだと思っている。職場に恵まれた、ということだろうか。 このバーは夕方から開店する。とはいっても、開店の六時から来る客は中々いない。殆どが皆、何処かで呑んできてからこの店に来る客が多い。俺は客が入るまでの時間に雪かきを終えればいい。まだ夕方四時半だった。 出勤が遅いため、今は巧とはすれ違いの毎日だ。 巧は近くの自転車兼バイク店で働いており、もうすぐ帰ってくる頃なのだろう。そうなると俺達は休日が被らない限り全くと言って顔を合わせない。最後に起きている巧を見たのはいつだろうか。いつも、俺が帰る時には巧は布団で眠りについている。一体何日、触れていないのだろう。 (これでは一緒にいる意味なんて無いのではないか) ふと、そんなことも考えてしまうのだった。 この店は嫌いじゃないし、マスターもいい人だ。 職場を変えるのは俺にとって不本意だった。でも、だからと言って巧の職場を変えさせるわけにもいかない。俺達は、これでやっていくしかないのかもしれない。 不安に押し潰れそうになりながら、俺は真っ白な雪を見つめていた。
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