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「ほら、もらい泣きしたって」
「ルリ、エリナのアカウント知ってたの?」
「こっそりリストに入れてる。サヤカ、自分からは教えてとか絶対言わなそうだし」
ルリの言い分は腑に落ちるものだった。伊達に三年以上に一緒に活動しているわけではない。事実、グループを離れてからのエリナを知ることは、怖かった。考えに考えて卒業を決意した彼女とは違って、自分はそこまで深く考えて活動を続けているわけではないから。
「私ね。エリカが言っていた覚悟が、自分の中にあるのか分からなくて、エリカのこと思い出すのが怖かったの。ちゃんと、エリカがいなくても、グループとして前進できているのかとか、自分の中で答えが出せなくて。そんなことエリナに知られたら、冷ややかな目で見られるかもって――」
だから、“FARAWAY FRIENDS”を歌いたくなかった。
自分で言っていて、バカみたいだった。まるで、エリカのことを信用していないみたいな言い草だから。そんな浅はかな恐怖心を抱いていた相手が、ライブを褒めてくれた。良いグループだと言ってくれた。
それはサヤカの中で、確かな自信に繋がった。何度も考えていた、エリカが言っていた覚悟というものが、自分にはあるのか。ようやく答えが見つけられた気がして。
エリカが母親から聞かされていたとおり、感染者が減っていた時期は束の間でしかなかった。緊急事態宣言も再発令された。そんな風当たりが強い中で活動を続けることは、苦しい。自分も辞めた方が良いんじゃないか。そう思ったこともある。けれど、その度に衝動的に湧き上がる「諦めたくない」という気持ちで、今日まで走り続けている。それに結果も伴うようになってきた。たとえば、今日のライブを配信の分も合計して、三百人以上もの人に届けられたことだとか。だから、これからもステージに立って、絶やさずに繋いでいかなくてはいけない。それが自分の覚悟だ。
サヤカは心の中に浮かんだ答えを、強く噛みしめて頷いた。やがて、悪戯っぽい笑みを浮かべて――
「今度、振り付けも入れてみよっか」
「いいね。それ」
ルリと笑い合った。次に披露するときは、もっと多くの人たちをびっくりさせるんだ。そう胸に誓いながら。
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