だから、“FARAWAY FRIENDS”を歌いたくなかった。

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「私も本当は辞めたくないし、ライブはまだまだ全然し足りない。でも、こんなことになっちゃって。ファンの人とかと話したら、うつるわけじゃん。マスクで防げるかもしんないけど。それで観客から、コールとか、熱狂とか、そういうのがまた伝わってくるのに何年もかかるかもしれないし、自分たちもいつコロナになるか分からないし、サヤカやルリだとか、神代さんとか、レッスンの先生とかいろいろお世話になってる人に、うつすかもしれない。そう考えたときに、それ全部背負って、親からの目もあって、これ以上続けられるか考えて。――私、そこまでの覚悟(・・)、あるのかなって」  語りが進むにつれ、エリナの声はかすれていき、ついには彼女の頬を、たらり、と涙が伝った。彼女とて生半可な気持ちで卒業を決意したわけではない。それが分かって、ついにサヤカは、彼女を引き留める言葉を見失ってしまった。「感染者が減って、また必ずライブができるようになる」としか考えていなかった自分を恥ずかしく思ったぐらいだった。   「すぐに卒業するわけじゃないよ。それは流石にファンの人にも失礼だし。何か月か期間を置いて、その間にオンラインの公演にはなるだろうけど、ちゃんと卒業ライブもやってからお別れしたい」  感染者が減って緊急事態宣言が解除されれば、スタジオやライブハウスを使用して収録・配信ができる。そうしてオンラインでの活動を何回かやった後に正式にグループを卒業する計画だそう。    あと二ヶ月と経たないうちに、エリナがいなくなってしまうことが決まった。  それからのエリナの進化は凄まじいもので。オンライン企画にも積極的に参加するようになり、韓流男性アイドルグループのダンスを数日で完璧にマスターした動画が送ってきたこともあった。画面を通して輝きを振りまくエリナのことは、素直に喜ばしい。けれど、「活動に迷いがなくなったのは、卒業が決まったからだ」とも思えて、サヤカは複雑な心境だった。
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