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真夜中、港のそばにある廃墟に5人の男がいた。
暗い廃墟の中央にロウソクの火を灯し、男たちは酒を飲んで楽しく語っている。
男たちは奴隷商売に携わっていた。
これまで街で子どもたちを誘拐し、商品として輸送してきた。
今回は珍しく身なりの良い子どもが手に入ったので、みな上機嫌だった。
地下に誘拐した少年がいる。
さらさらの黒髪と透き通るような白い肌、しわのないシャツ、艶のあるブーツから、彼が裕福な家の子どもだったことが分かる。
少年の意識はなく、ぐったりと横たわっている。
ただ、たとえ目を覚ましたとしても、手足に枷をはめられているので逃げることは困難だ。
集まっていた男たちの中の一人が、外に人の気配を感じた気がした。
「…おい、こんな真夜中に蝶が飛んでいるぞ」
入口に目をやると「青い蝶」が扉の隙間から入っている。
「おお…珍しい。綺麗な青色だ」
「捕まえたら高く売れるかもしれないぞ」
一斉に、男たちは蝶に注意を向けた。
蝶はロウソクの明かりを反射して光りながら、ゆらゆらと廃墟の奥まで飛んでいった。
その時、「こんばんは」と可愛らしい女の子の声がした。
廃墟の中に一人の少女が入っていた。
腰まで伸びる黒髪と肌の白さが印象的な少女だ。
白と青を基調としたワンピースを着ていて、首元に大きな青のリボンを結んでいる。
少女の目は、先ほどの蝶を連想させる鮮やかな青色だ。
怪しげな男たちを見た後も怖がることなくほほ笑んでいる。
男たちは、突然現れた美しい少女を見た後、目くばせした。「この少女も売ろう」と。
「お嬢さん、こんな夜中にどうして港にいるのかな」
「お家の場所を教えてくれたら、送ってあげるよ」
「とりあえず中で話を聞こうか。さあ、中で温まるといい」
男たちは笑顔を繕った。
「あなたたちと話すことは何もないわ。ただ、弟を返してほしいだけ」
「弟…?」
「ええ、あなたたちが誘拐した子どもたちの中に、12歳くらいの黒髪の男の子がいたでしょう?」
少女はにっこりと笑った。
どうやら誘拐した少年の情報が洩れているらしい。
しかし少女は単独で乗り込んできたようだったので、男たちはシラを切るのは無駄だと思った。
どうせ彼女も誘拐するのでばれても問題ない。
「ああ、そうだよ。ここに嬢ちゃんの弟はいるぜ」
「でも、返すわけにはいかないんだ。大事な商品だからね」
「知ってるかい、貴族の臓器は高く売れるんだぜ」
「貴族の眼球が欲しいって言う商人がいてな」
「そいつのためにあのガキを捕まえたんだ」
「弟を返してほしいなら、君が代わりに目を売るか?」
男たちは、少女が恐怖で震えることを期待した。しかし、
「目を差し上げるだけでいいのかしら?」
少女はごく自然な動作でワンピースの左袖に右手を忍ばせた。
笑顔で取り出したものはナイフだった。
そのままためらいなく左目に突き刺した。
赤い赤い血が男たちの顔や服に飛び散った。
「!?」
男たちは全員、状況が呑み込めず、ただ目を見張る。
自ら目に刺した?なんの躊躇なく?何故ナイフが?一体?
様々な疑問が彼らの頭の中を駆け巡った。思考が追い付かず、声が出せない。指先すら動かせない。
ただ少女から目が離せなかった。
少女は刃先の中央部分まで突き刺したナイフを動かし始めた。
肉と血が混ざるグチャグチャという音と、骨と刃がこすれるギチギチという音が響く。
「はい」
少女は、血と肉がついた眼球を、男たちの足元に転がした。
「!」
ひとりは自分の足元の眼球を見て吐き出し、ひとりは少女を見て吐き出し、ひとりは膝から崩れ落ち、ひとりは状況に耐えきれず気絶した。
少女の左目には黒い空洞ができていて、血が地面にも垂れている。
「ねえ」
もう一度少女が声を掛ける。
唯一意識が残っていた男は我に返って、弟を開放することにした。
「地下に…ここの地下にあんたの弟がいるよ…!」
少女は変わらず笑顔のままだ。
「悪かったよ…!だから、命だけは…!」
そこで男の意識は途切れる。
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