4人が本棚に入れています
本棚に追加
あたし
帰りに突然の雨が降ってきた。
今日に限っていつも持っている折り畳み傘を忘れたなんて、本当についてない。
夕立だから止むかもしれないと、駅のカフェで待ってはみたものの、分厚い灰色がどこまでも空を覆っている。
この雨はもう止まないな。
あたしは諦めてそのまま帰ることにした。
鍵をあけて中に入ったあたしは、ただいまを言うより早く雨に文句をぶつけた。
一刻も早くお風呂に入りたい。
そう思ってすぐに、キッチンにあるお風呂の自動湯張りを押した。
濡れた服を脱いで部屋着に着替える。濡れた短い髪は握るように丁寧に拭いた。昨夜きれいに畳んで置いておいた洗濯物がちょうど役にたった。
待っている間にホットコーヒーを入れる。
冷えた体に暖かさが廻っていく。
あー……落ち着く。
コーヒーで少し気分も上がり、そろそろお湯も溜まる時間だなと、あたしは濡れた服達をもっていそいそとお風呂へ向かった。
洗面所の、引戸を開ける。
おかしい。
お風呂場のドアは必ず閉めることにしているのに、なぜか開いている。
閉め忘れ?
あり得ない。湿気が広まってしまうのが嫌で、毎回きちんと閉めている。閉め忘れたことなんて一度もない。
心臓が激しく脈打ちはじめた。
電気はつけずにそっと中を見回す。
強烈な違和感。
そしてあたしは見た。
震える足を叱咤しつつ、家から音をたてないよう静かに逃げ出す。
そして震えが全身に廻りはじめる前に、警察へ電話を掛けた。
「すいません!! あの! いつも閉めてるお風呂場のドアが開いていて、おかしいなと思ったら浴槽の蓋が少し浮いてて! あの、中によくわからないんですけど何か気配してて! 絶対家に何かがいるんです!」
支離滅裂なあたしの言葉を、警察の人は落ち着いて理解してくれた。
そしてあたしは近くのコンビニで警察が来るのを待っている。
ああ、本当についてない。
最初のコメントを投稿しよう!