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ガタガタと、自電車の振動で揺れる地図は、僕のつまらない日常に抗議しているのかもしれない  溜息を吐くと白い息がもれる。その視線の先を見ると、街中の建築物の名前が書いてあった。駅前には、チェーンテンノカフェヤ、コンビニ:スーパーヤドラックストワがあり、そこを抜けるとファミリー向けの住宅街が広がっていた。  幼いころから住んでいる実家のような街中を歩く旅に、都会化しようとして失敗した残骸のような街だなと、笑いがこみあげてくる。  そんな街でも、唯一、日本でも有数の高さを誇る山があるおかげで、毎年、夏になると登山客がやってきて、少々活気づく面も持ち合わせている。 その山で最近、神隠しに合う人がちらほら出てきていると、、【事象情報通】を名乗る友人が、元から大きな瞳をさらに開き鼻息を荒くしながら教えてくれた。。 曰く、深夜0時ちょうどに、山のてっぺんにある大木の目の前に立っていると、この世のものではない外科医の化け物がやってきて、2つの選択肢を与えてくる。 そのままでいるか……変化を受容するかと  思わず、その友人に、馬鹿じゃないかと口を滑らしそうになったくらい……くだらないと感じてしまった。  非科学的な存在がいるのも理解できないし、他人の指図で、未来を決めたくない。  だけど、こんな好奇心に彩られた瞳を消したくないと感じ、口を閉ざすことにした。  (でもなんで、その山に来てしまったのか)  そんな僕の独り言に返事を返すものがあった。  (そうよ。もう遅いんだから帰りなさいな)  心臓を握りつぶされたのかと思うくらい驚いた僕は、背後から聞こえた声の主から逃げるように、飛びのいた。 視界の端に移ったのは、仁王立ちの黒猫だった。  (なんだただのネコかよ。驚かせんな。仁王立ちとはすごい芸を仕込まれたな) (まぁ、いいわ)  猫は両の手を(やれやれ) というように振っている (あなたで人間は、7人目になるわ。化け物が出て、神隠しに合うとか噂になっているようね――あながち外れではないから問題ないんだけど、……)  僕の制止する声を無視して、黒猫は話し続ける。胸を張り、無駄にエラそうな口調で  (あなた魔法の世界に行きたくないかしら。どう見ても順風満帆な人生を謳歌しているように見えないし、なんだかつまらなくて嫌気がさしているように見えるもの――)  話すのも飽きてきたのか、人が使う綿棒で耳を掃除し始めた。  (ていうか、その黒い光沢を輝かせている綿棒は、僕のだろ!!いつでも掃除できるように持っているお気に入りのやつをいつの間に取ったんだ)  僕は、黒猫に突進する。ちょうちょうのように、ひらりひらりと空中に舞いながら、黒猫は僕のイノシシのような追撃をかわし続ける  どのぐらいそうし続けたのだろう。築かぬうちに、呼吸をするのも苦しいと感じ始めたころに、黒猫は大木と身を重ねながら何事かを告げた  (エアーウォール)  その瞬間、見えない風の壁が現出した。ラガーマンのように前傾姿勢の重心の乗ったタックルをしても、黒猫には一センチも近づけなかった  へのへのもへじの様な間抜けな表情になりながら、困惑しているであろう僕を見ながら、黒猫は話を始める  (これが魔法!!この世界の半歩先の次元では、魔法使いが存在していて、自分の得意な魔法で生きているのよ。)  (だけど魔法使いの仕事は大変で、魔法のないこっちの次元に期待と希望する人も少なくないの……だから、異次元の空間を開ける私たち一族が、この山に来た人間を勧誘しているの――あなたもどうかしらどうせここに残ったって、実のある人生なんて過ごせる保証なんてないんだから、あなたみたいな人は、魔法があるくらいがちょうどいいのよ)  自分のこめかみがピクピク動くのを指で静止しながらも、口角が、無意識に上がってしまう。  自身の手を見つめた後、目の前の無色の壁にそっと触れてみる。一定の方向に風が流れていることに気づき、人差し指でその気配を追いかける。  それなりに充実した駅前、二酸化炭素をまき散らし走り続ける自動車社会、旅行で都会に行ったことを見上げ物を携えて、熱っぽく話す同世代のやつら。  確かに、嫌気がさすほど、平和で退屈な街だな。そして僕もその一人なんだ。どんなに虚勢を張っても、都会のあこがれは消せない――だったら)  自分の指を見つめていた視線を目の前の黒猫に向けた。  (じゃあ、行こうか……もう一つの世界に)  綿棒を持っていた手を一度左右に軽く振り、僕に手招きをする黒猫。 今更、猫と名瀬普通に会話をしているのだろうと気になったがそんなことはお遺徳  来るのが当たり前だと思っているかのように、黒猫は僕に対し、後姿を見せる。早くついて来いというように……いつの間にか無色の壁は掻き消えている。  (ああ、分かったよ。正直うざいけど、お前についていくことにするよ)  僕のスマフォには、不可解な現象に巡り合わせてくれた友人から、【君なら、絶対山に行っているはずだから、5000文字レポートを私に提出することを課題とする】とメッセージが来ていた。また、無意識に、口角が上がっていた。   (バーカ!!)
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