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閉店の音楽と館内放送も終わり、レジ締めを見守り催事場内を一回りした後、臨時バイト、パートさんに挨拶をした後、七美に急かされ踊り場に向かった。
非常階段に通じるドアを開け、非常階段を上がっていく。今回はちゃんとジャケットも着用していったわよ。と言うより七美からさっと渡された。なんか・・腑に落ちず階段を見つめながらあがり、少し息切れするのはきっと気のせいと独り言をしながら最後の1段をあがり踊り場に視線を動かすとそこには、手すりによりかかる直也の姿。その背後には近くのビルに描かれた大きなハートに息をのんだ。
「もっと近くにおいで」
すっと伸びてきた直也の手を取り手すりの側までついて行く。
ビル群の光と共に大きく輝く大きなハート。
直也の手には、シャンパンとグラス2つ。
「はい、これ持って」とグラスの1つを手渡された。
声も出ずに口を開けてあわあわしている私ににこりと微笑む特別な人。
いつの間にかつがれたシャンパンの気泡がまるで花火のように舞い上がる。
「とりあえず乾杯しよ」
「う、うん。す、すごいね。夜景もきれいだし、ここからあのハート見えたんだね。どうして知ってるの?この場所」
それには何も答えず、いきなり私が持っているグラスを床に置いた、不思議そうに見つめる私を抱きしめた。
「うーん・・・それは秘密かな?」
突然、今年の催事のキャッチフレーズ「特別な人のために特別なものを」をささやきながら直也が跪いた。
目の前に開かれた手には四角いケースとその中の光るもの。
「 Will you be my wife ? 」
あまりの驚きに何も言えなくなってしまった私の沈黙が続く。
何?このシチュエーション??端から見たらものすっごく萌えシチュよね?この景色もインスタ映えじゃない。
「菜緒美?何か言ってもらわないと・・・ちょっと」
涙腺が崩壊した。
「 うっ、、うん。はいっ。Yes?え・・何て言ったらいい? 」
ほほえみながら、少し震えながら指輪を取って左の薬指にはめてくれた。
「ありがとう。良かったぁ〜〜何も言わなかったからだめなのかと思ったっ!ふぅ〜。緊張したっ!」
少しおどけるようにしながらしゃべる直也のこと私はよく知ってる。そうやって私の気持ちをほぐしてくれてるんだよね。だから私もすぐ素直になれる。
ぐちょぐちょになった私の涙を丁寧にやさしく拭きながら、そっと抱きしめてくれた。
「「寒すぎるよね。中入ろうか?」」
見つめ合いながら同時に言った言葉が同じ言葉だった。
肩を抱くように階段を降り、ちょっと足が震えてたけどドアを開ける寸前に直也の手を引く。
「直也、愛してる」
ドアを開ける前にもう一度だけ、ハートを背にし二人でたくさんの「特別な人に特別な愛を」
多くの人の愛であふれる夜になりますように・・・・。
【終わり】
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