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プロローグ
あの、自分の体がところてんの身になったような、「ぐにゃりと押し込まれる」感覚を経て。まりんが「はっ」と気付くと、そこは広さ四畳半くらいの、物置のような小部屋だった。その小部屋には、魔法についての書物や杖のようなものなどが、ところ狭しと置かれていた。間違いなくまりんは、向こうの世界に「戻って来た」のだ。
それからまりんは振り返り、小部屋の棚の上に置かれていた鏡を「ぱたん」と伏せた。そして、「現実の世界」で買って来た袋から白いタオルを取り出すと、鏡の面を見ないように注意しながら、慎重に鏡をタオルでくるみ、袋の中に仕舞い込んだ。
……これで、いつでもまた「元の世界」に戻れる。でもそれは、この物語が、冒険が終わってから。バッドじゃないエンディングを迎えてからよ……!
後はまりんの想像通りに、今が現実の世界へ行った時と「同じ時間」であることを祈るだけだったが。すぐにそれは確認出来た。
「まりんちゃんも、『旅の支度』は出来たかな~……?」
耳にしただけで懐かしく、涙がこぼれそうな、あの「チャラ男」の声が、小部屋の外から聞こえてきたのである。……ああ、エーディンさん。そのすっとぼけたような口調が、今はほんとにいとおしいわ……!
でもまあきっと、すぐにウザくなるんでしょうけどねと、まりんが思っていると。更に、「もういいかーい、って、かくれんぼみたいだけど。まだなら、『まーだだよ』って、返事して?」という声がした。
ほんとに、このふざけたような声だけ聞いてると、腕の立つ剣士には思えないわよね。まりんは声に応えて、「もう少しだよ~」と返事をした。小部屋の床には、まりんが「向こう」から持ってきた「道具類」を詰め込んだ袋とは別の、こちらの世界でずっと使っていたカバン代わりの袋が、主人の帰りを待っていたかのように、取り残されていた。
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