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守る(3)ストーカーの声
有紗のストーカーは、益田英孝、24歳。学生時代にイベントのプロデュースを始め、そこからユーチューブの制作協力やモデルやエキストラの派遣を始めたら瞬く間に成功したという青年実業家だ。
見た目は爽やかなハンサムで、いかにもモテそうな雰囲気だ。
有紗とは学生時代に知り合ったらしい。その頃は上手くいっていたというが、有紗が就職した途端、色々と問題が起こりだした。
まず、男性と新人歓迎会などの飲み会などがあると怒る。同僚だと言っても、男性の電話番号がスマホに登録してあるのを見て怒る。そしてついには、男性が同じ職場にいる事でも怒るようになった。仕事中で連絡を返せなかった時には怒って仕事を辞めて家にいろと言い、同僚と歩いているのを見た時には車に強引に引きずり込まれ、監禁されかけた。GPSを仕込まれているのに、この時気付いたという。
それで「別れて欲しい」と言ったが納得せず、付け回し、家族や会社の同僚や友人達に「結婚する」と触れて回るだけでなく、SNSでも「婚約者」として有紗を紹介していた。
友人達はやっかみもあるのか、相談しても、「愛されてるって自慢してるの」と言うだけ。家族はいまひとつピンと来ていないらしく、「痴話げんかか」くらいに思っているらしい。
「それは怖かったわね」
雅美がそう言うと、有紗はわっと泣き出した。
「大丈夫ですよ。私達が、必ずあなたを守りますからね」
悠花がそう言って背中をなで、安心させる。
それを涼真、湊、錦織は見ながら、方針を決める。
「雅美さんが常に一緒に行動して、湊君と涼真君はそれを離れて警護した方がいいでしょう。ちょっとやそっとでは済まないくらいの証拠を集めたら、警察に被害届を提出ですね」
「中途半端だと、余計に逆上して何かしませんか」
「かと言って、息の根を止めるわけにもなあ」
様子を窺うと、ようやく有紗も泣き止み、わずかながら笑顔も出ていた。
「お願いします」
頭を下げる涼真に、湊も錦織も、苦笑を浮かべた。
それ以降、雅美と悠花が交代で、24時間べったりの警護が開始された。仕事中は会社の見えるところで待機しており、湊と涼真も、同じく張り付いている。
「見に来る様子はなかったわね」
それらしい車も通行人も現れなかった。
なのに電話がかかって来て、
「警備会社に何を言った?お前は俺の物だろう。さっさと解雇しろ。何の心配もない。俺が守るから」
と言ったのだ。
それで涼真も湊も、一同に集まった。
「何で知ってるんですか」
悠花が首を捻る。
「これまでも、驚くくらい何でも筒抜けだったのよね」
雅美が言って湊と涼真と頷き合うと、悠花もはっとしたようになる。
そして、悠花は有紗のスマホを調べた。
結果、有紗のスマホにはスパイウェアが仕込まれている事がわかった。GPSで居場所を特定する事は勿論、勝手に起動させて、会話を聞いたり有紗の周囲を窺い見たりしていたらしい。
「気持ち悪っ!」
悠花が嫌悪感丸出しで思わず言うと、有紗も強張った顔で
「最低っ!」
と吐き捨てた。
と、すかさず電話がかかって来る。
「……知らない電話番号です」
有紗が怒りと恐怖の混ざった表情で言い、一応、通話状態にした。
『そいつら、何』
それは初めて耳にした、益田の声だった。
『俺と有紗の邪魔をする奴だよな』
「あ、あなたとは関係ない!もう私に構わないで!」
『何を言ってるんだ、有紗。お前は俺の物だろう。逃がすわけないだろう?逃げられるくらいなら、いっそ』
「もうやめて!」
有紗は叫ぶように言って、乱暴に電話を切ると、それを投げだした。
皆、表情を引き締める。
「少し休みましょうか。ね」
悠花がアイコンタクトを受けて有紗をベッドへ連れて行くと、こそこそと相談した。
「攻めて来るぞ」
「大丈夫かな」
「上手くやれば、それが証拠となる」
涼真は緊張した顔で、言った。
「知り合いだからというわけじゃなく、こんなにも怯えている人を、ボクは守りたい」
「ええ」
「これまで以上に、気を付けるぞ。
まず明日の通勤からだけど――」
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