【第45話:カワイイはこれから】

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【第45話:カワイイはこれから】

 あれって……もしかして、アレン様が手配してくれた衛兵さんかしら?  そんな事を考えている間にも、あちらは馬に乗っているため、見る間に近づいてきました。 「衛兵さんみたいだし、やっぱり私たちの件かしら?」 「確かアレン様が衛兵を向かわせるって言ってたのよね? キュッテ……話しかけた方がよくない?」 「……レミオロッコ、練習よ。あなたが話しかけなさい」  別に私が話しかけるのは全然問題ないのだけど、人見知り克服の練習です。 「う……わ、わかったから! せ、背中押さないで!?」  副ギルド長にナイフを突きつけられていた時は、あんなに勇気を見せて私を励ましてくれたのに、今は緊張で頬がひくひくしています。  でも残念ながら、レミオロッコが話しかける前に、向こうから先に話しかけてきました。 「キュッテ!! 無事だったのですね!!」  しかしそれは、とても意外な人物でした。 「え!? アレン様!? どうして衛兵さんと一緒にいるんですか!?」  街と違って、衛兵さんは兜まで被ったフル装備だったので、兜をとって声を掛けられるまで全然気づきませんでした。  しかも、普段はメガネをかけているのに、今はメガネを外しており、しかもいつもは糸のように細い目が、今はこう……なんて言うのでしょう? 開眼してるといった感じでしょうか? 「友人が危ない場所へと向かったのに、のんびり街で待ってなどいられませんよ。それに、領主は戦いがあれば兵たちを率いなければいけませんからね。こう見えても、小さな頃から色々と叩き込まれているのです」  そして「僕が後を継ぐことはまずありませんけどね」と笑ってから、さらに言葉を続けました。 「しかし、本当に二人とも無事で、何事もなくて良かったですよ」  ん? アレン様はしみじみと何を言っているのかしら? 「アレン様? 何事もありましたけど?」 「え?」 「え? ですから、何事かはありましたよ? 副ギルド長が盗賊風の男たちを使ってうちの羊を盗んだあげく、レミオロッコを攫って逃げてましたからね。でもほんと、レミオロッコも羊も、みんな無事で良かったです」 「ちょ、ちょっと待ってください! ではキュッテは、この短時間で攫われたレミオロッコを救出し、羊を取り戻したのですか!? 副ギルド長たちを撃退して!?」 「ん~少し違いますね。副ギルド長たちは撃退したのではなく、捕えてあります。ですがアレン様。出来れば、脱走されると怖いので、早めに引き取って頂けないでしょうか?」 「なっ!? そ、そうなのですか……キュッテとフィナンシェはやはり優秀ですね」  アレン様はフィナンシェが、以前ビッグホーンをブレスで焼き払ったのを思い出したのでしょう。  一人で何かうんうんと頷き、納得してくれたようです。 「それでは副ギルド長たちを、すぐに牧場に引き取りに向かいましょう」 「あ、それは手間ですから、ここに転移させますね」  もう人体実験も無事に(・・・)終わりましたしね! 「はっ!? まさか、人も運べるのですか!?」 「はい。運べちゃいました(・・・)ね」  アレン様は私の言葉に若干頬を引き攣らせながらも、 「そ、そうですか。では、さっそくお願いできますか?」  と言って下さったので、ここで引き取って貰いましょう。  街まで行ってから転移させてもいいのですが、心情的になるべく早く引き取って欲しかったので、すぐにここへ連れてくる事にしました。 「じゃぁ、フィナンシェ。送還したら、すぐに馬車を咥えて大人しく待ってて……送還!」  後ろに控えている衛兵さんたちが、転移する光景を目にして、ちょっとどよめいていましたが、アレン様が気を利かせて他言無用だと命令しておいてくれました。 「そろそろいいかしら……召喚!」  そして、目の前に荷台が檻になった馬車と共に、フィナンシェが帰ってきました。  コーギーモード(ちいさな姿)で車輪に噛り付いてる姿がちょっとカワイイ。  もちろん檻の中には、未だにぐーすか寝ている副ギルド長たちの姿もちゃんとあります。寝かせたのは私ですけどね。 「す、凄いですね。ここまで大きなものを……。それにしても、この状態はいったい? 気絶させたのですか?」  まさか寝ているとは思わないアレン様がそんな風に聞いてきました。 「気絶ではなく、私の能力で寝かせています。ちょっと起こしてみましょうか」  私はそう言うと、羊の数を数えると寝てしまう能力をオフにしました。  すると……。 「む……いったいどうなっているんだ……はっ!? なんだこれは!? 牧場の餓鬼!! き、き、貴様~!」  もう、うるさいですねぇ。  縛るだけじゃなく、寝てる間に口も塞いでおけば良かったかしら? 「キュッテ! 副ギルド長のギフトは、研究系スキルの『分析』です! あらゆるものを細かく分析して記憶できる能力を持っています! 相手の弱みを見つけて弱みにつけこんでくるらしいので、油断しないでください!」  なるほど。その能力を使って悪さをしていたのですね。  でも……それは良い事を聞きました♪  だって、あらゆるものを記憶するって事は……。 「副ギルド長~♪ 盗んだピンクの羊って、何匹いましたっけ~?」 「何をわけのわから、ん……こと、を……ふごっ……」  あ、ちょっと面白いかも……。 「……え? ね、寝たのですか?」 「はい。じゃぁ、起こしてみますね!」 「はっ!? き、貴様いったいな、にを……ふぐぉっ……」  ふふふ、ふふふふふふ……そんなしっかり記憶してたら、数えちゃいますよね~。  なんか楽しくなってきました♪  その後、アレン様に「そ、そろそろその辺で……」と言われるまで、何度も副ギルド長を揶揄って遊ばせて貰いました。  最後は「ひ、ひつ、じが……」と呟いて大人しくなったので、これで良しとしてあげましょう♪  ぎゃふんとは言わせられなかったけれど、ちょっと気分が晴れました。  その後、衛兵さんにしっかりと拘束し直してもらい、馬車ごと副ギルド長たちを引き渡したのでした。 「それじゃぁ、キュッテ。僕たちは副ギルド長たちを先に街まで護送しますので、疲れていると思いますが、後で衛兵の詰め所まで来てください」  もう街まで遠くありませんから、アレン様たちには先に行って貰う事にしました。  最強の護衛(頼もしい牧羊犬)もいるから、レミオロッコと二人でも危険はないですし、のんびり向かうつもりです。  本音を言えば、このまま牧場に帰ってゆっくりしたい所ですが、事情説明をしなくてはいけませんからね。 「はい。街に着いたらすぐに向かいます」  こうして副ギルド長たちを引き渡し、ようやく今回の騒動は収束したのでした。  ◆  アレン様たちと別れたあと、私とレミオロッコ、そしてフィナンシェを加えた二人と一匹で、街道を仲良く並んでのんびりと歩いています。 「ねぇ、レミオロッコ。副ギルド長の邪魔が無くなるし、羊毛、高く買い取って貰えるようになるでしょ? そしたら、お金にかなり余裕ができるじゃない?」 「うん? ……そうね。さすがにギルドも今回の件で領主様からおしかりを受けるだろうし、今よりはかなり高く買い取ってくれるんじゃない? うちの羊毛、普通のでもかなりの品質よ」 「だよね! それでさ、お金出来たらさ……私、い~っぱい! カワイイを創りだしたいの! 協力してくれる?」 「はぁ~……キュッテはめげないわね~。でも……いいわよ。あなたには大きな借りが出来ちゃったしね」  レミオロッコはそう言って微笑んでくれました。  私の方は貸しだなんて全く思っていないのだけれど、協力してくれるみたいだし黙っておこうかしら。そう、私は(したた)かな女なんです。 「じゃぁまずは……私の部屋をピンクで埋め尽くすわよ!」 「え? そこから? 商品を考えるんじゃなくて? ……まぁでも、その方がキュッテらしいね。ふふふ♪」 「レミオロッコのくせに言ってくれるじゃない……まぁ今は機嫌がいいから許してあげるわ。ふふ♪」  今回の騒動は、平和な世界で生きてきた私たちにとって、とても大変な出来事でしたが、レミオロッコとの間にあった距離が、ぐっと縮まった気がします。 「これから二人で力を合わせて……この世界に『カワイイ』を普及させていくわよ!」 「う、うん。まぁ、ほどほどに、ね!」  こうして私とレミオロッコは、ようやく平穏な時間を取り戻したのでした。  待ってなさい! この世界のカワイイはこれから始まるのよ!  ……次の日、白と黒の何かを引き取るため、あわてて街に向かったのは内緒です……。 **********************************  あとがき ********************************** まずは第一章完結までお読み頂き、本当にありがとうございました! ようやく邪魔な副ギルド長を排除してスッキリしましたが、 キュッテの異世界カワイイ普及計画はまだまだこれからが本番です♪ キュッテとレミオロッコの活躍はきっとこんなものではありません。 という事で、第二章を楽しみにお待ちくださいませ☆ それでは、これからも『羊飼い転生』をご愛読と応援のほど、 よろしくお願いいたします!<(_ _)> **********************************
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