【第1話:ギフト】

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【第1話:ギフト】

 どこまでも続く草原が広がっていた。  私の髪を靡かせた気持ちの良い風が吹き抜けると、そのまま丘を駆け下り、緑の波となって草花を揺らしながら遠ざかっていく。 「綺麗……」  私は眼下に広がる光景に、思わず息を飲んでしまいました。  丘の上に立つ私の目に映ったのは、たくさんの白いモコモコ。  亡くなった祖父から受け継いだ、私のカワイイ、カワイイ……カワイイカワイイカワイイ羊たち! 「い、いけないいけない。ちょっとあまりの可愛さに、取り乱してしまったわ」  このカワイイ羊たち……いいえ、正確に言うと、九八匹のカワイイ羊と二匹のカワイイ山羊は、私の牧場で飼っている迷える子羊たち。  あ、別に迷ってはいなかったわね。と言うか、山羊も混じってるのに子羊たちって表現も?  本当は先週までは牧羊犬のラッシーもいたんだけど、老衰で亡くなっちゃったので、ちょっと寂しい……。  まぁとにかく、みんな私のカワイイ子供たちよ。 「それにしても、ここは……控えめに言っても……天国かしら?」  なぜ私が、自分の飼っている羊や山羊(子供たち)を見てこんなに興奮しているかと言うと、もちろんカワイイからだ!  いや、そうじゃなくて、もこもこふわふわでカワイイのは事実なんだけど、どうしてこんなに興奮しているかと言うと、たった今、思い出したからだ。 「まさか本当にこんな事が起きるなんてね」  私は自分の手を太陽にかざし、小さな手を見つめる。  遠い記憶に残る手よりも一回り小さな手。 「異世界か……でも、どうしてこのタイミングで前世の記憶を思い出したのかしら?」  この世界での私の名前はキュッテ。  今日この世界で一〇歳を迎えた女の子。  容姿は前世の基準で言えばかなりの美少女なんじゃないかしら?  短く切りそろえたブロンドの髪に、翡翠色の瞳。  まだ幼いわりには整った顔立ちをしていて、きっと将来有望よ。  両親は街で洋服店をしていたらしいけれど、二人とも私が物心つく前に他界。  ほとんど記憶に残ってないのよね……。  その時に私を引き取って育ててくれたのが、父方の祖父。  祖父には本当によくして貰った。  それで、その祖父が営んでいたのが、この牧場と言うわけ。  でも……その祖父も半年前に亡くなってしまい、今はたった一人でこの牧場を切り盛りしているの。  九歳児、まだ幼女と言っていい私が、たった一人で牧場をやってこれたのは、この世界の牧草の成長が元の世界よりかなり早く、遊牧生活じゃないというのもあるけれど、一番の理由は、私が酪農系スキル『牧羊』を所持しているから。  この生まれながらに持つスキルの事を、この世界ではギフトとも呼ぶらしい。  まるでゲームのような話だけど、ステータスとかまでは存在しないみたいなので、特殊なのはこのギフトぐらいじゃないかしら?  まぁ、そのギフトとして受け取るスキルの能力が、凄いゲームっぽいのだけれどね。  そして、さっきその酪農系スキル『牧羊』のランクがアップしたのを感じたの。  感覚的なものだし、ランクがあがるのは初めての経験だったので、私の勘違いの可能性もわずかに残ってはいるけれど、でも、さっきのあの感覚は間違いないと思うわ。 「やっぱりスキルのランクが上がったのがきっかけで思い出したのかしら?」  ついさっき、私は前世の記憶が蘇った。  いわゆるOLというものだったのだけど、仕事をかなりバリバリとこなしていたので、キャリアウーマンと言った方がいいのかしら?  性格も表向き(・・・)は凄く真面目だったので、会社での裏の呼び名が「真面目子さま」や「地味子さま」だった。  裏でなんと呼ばれようと私は気にしないのだけど、もうちょっと捻りのある仇名を付けて欲しかったわ。  でもね……本当は私ってあまり真面目でも無ければ、地味でもなかったのよね~。  部屋なんてピンク一色だったし、数十体のぬいぐるみに囲まれ、とにかくカワイイものに目が無くて、『カワイイはこの世の真理』チャンネルとかを開設して動画配信とかしてたり。  会社に行く時以外は完全に引き籠りだったし、食事も全て某イーツに届けてもらって済ませているほどの面倒くさがり。コンビニの商品まで頼んでたしね。  ただ、好きな事には努力を惜しまない性格だったかな?  あ……そう言えば、リアルの知り合いにはそういうの秘密にしていたんだけど、私が亡くなって色々バレたりしてないかしら……。  なんだか急に心配になってきたわ。  ちなみに亡くなったのは、元々抱えていた持病で体調が急変して、ね……。 「そうだ……私って死んだのよね」  口に出して呟くと、何だか前世の記憶が走馬灯のように思い出される。  普通は死の間際に見るものなんでしょうけど、死んでしまって転生してから走馬灯のように思い出すなんて、ちょっとおかしな話ね。  どうして前世のことを思い出したのかはわからないけれど、これから一人で生きていく上ではきっと役に立つはず。 「役に立つわよね? 私の前世の経験……?」  ちょっと自信ないけど、きっと、たぶん、おそらく、なにかちょっとぐらい役に立つはず!  そんなことを考えていると、何だか羊たちがカワイイ……じゃなかった、何だか羊たちが騒がしいことに気付きました。 「あら? 何かしら?」  その原因を求め、視線を彷徨わせていると、突然、獣の咆哮が聞こえたのでした。
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