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【第43話:ハグ】
突然、巨大なケルベロスが消えた事に、さすがの副ギルド長も目を見開きました。
雇われた盗賊風の男たちも、驚き、戸惑っているようです。
「キュッテ……どうして……」
「いいのよ……。副ギルド長、これで私は暫くあの子を呼び出す事は出来ないわ」
「え!? 本当なの!? なんてことを!?」
え? 嘘ですけど? なんで、レミオロッコが騙されてるのよ!
荷物の運搬で送還、召喚コンボを何度も見せてるじゃない……。
まぁ、お陰で向こうも騙されてくれそうな感じだけど。
「これであなたたちの後を追う事は出来なくなったわ」
「……餓鬼の割には頭が切れる奴だと思っていたのだが、どうやら善人と言う名の馬鹿だったようだな。おい、お前ら、さっきの事は許してやるから、そいつも攫って……」
「待ちなさい! ケルベロスは、私やレミオロッコの位置を特定できるわよ? 羊を諦めるのだから、私たちは諦めなさいよ」
本当はフィナンシェにそんな能力があるのか、やってみないとわからないのだけど、レミオロッコはともかく、主人である私が攫われたら、うちの優秀な牧羊犬なら追いかけてきそうな気はするかな。
「ふんっ! 気に食わないが……良かろう。この希少種の羊で我慢しておいてやろう!」
なにが「我慢しておいてやろう」よ! ぐぬぬぬ……今は我慢よ……。
「そ、それが賢明よ。それより、レミオロッコをはなして!」
「まぁいいだろう。ほれっ」
副ギルド長はレミオロッコの手枷を外すと、乱暴に背を押し、意外にも本当に解放してくれました。
「レミオロッコ!」
「キュッテ!」
私は体勢を崩しそうになりながらも、こちらに走り込んできたレミオロッコを受け止めると、しっかりと抱きしめました。
「ごめん。キュッテ……私のせいで……大切な羊が……」
「大丈夫……大丈夫よ。あなたの方が大切だもの」
「ありがとう。キュッテ……ありがと……」
うん。泣かなくて大丈夫よ。レミオロッコ。
だって……このまま羊をあげる気なんて、さらさらないんだもの!!
「ねぇ! ピンク色の羊は仲間意識がとても強いの!」
私が突然大声で話しかけてきたので、副ギルド長は一瞬怪訝な顔をしたものの、普通に言葉を返してきました。
「なんだ? それがどうした?」
「うちには五匹の羊がいたはずなのに、そこには四匹しかいないじゃない!? もう一匹はどうしたの!?」
私の言葉に、小さく「バカな」と呟いた副ギルド長は、馬車の方を振り向き……突然、崩れ落ちました。
「え? なに……?」
そして、驚くレミオロッコの呟きが聞こえる中、盗賊風の男のうちの一人も、続いてまた崩れ落ちました。
「なっ!? お前、なんかしてやがるな!?」
「おい! その餓鬼を殺せ!!」
ちっ、顔怖いくせに勘の良い人ですね。顔は関係ないけど。
でも、そのまま羊を数えてくれれば、痛い思いをせずにすみましたのに。
「フィナンシェ!! やっちゃいなさい!」
「「がぅ♪」」
はい。私、そもそも送還なんてしていませんからね。
私の腰の辺りまで伸びた草の中から、変身してコーギーモードになったフィナンシェが飛び出てきて……、
「うがっ!?」
「ぎゃぁっ!?」
あっという間に残った男二人を、叩きのめしてくれました。
うちの牧羊犬は、小さくなっても強いですからね! 牧羊犬ですが何か?
「え? え? え? ど、どういうこと!? なんで、副ギルド長が倒れたの!? なんで、フィナンシェちゃんがここにいるの!?」
「あなたねぇ……私の能力ある程度知ってるんだから、わかりなさいよ」
「え? だって、フィナンシェちゃん、送還したら暫く召喚できないって?」
え? そこ? まだそこ騙されてるの……。
「えっと……まず、私いっつも送還と召喚を繰り返して荷物運んでいるよね?」
「はっ!? だ、騙したのね!?」
「副ギルド長を騙すために言ったのに、レミオロッコが騙されてどうするのよ!?」
「あ……そ、そうだよね……あれ? でも、そもそも召喚してたらあんな早く飛び出せなくない?」
私が召喚したシーンでも思い出しているのでしょう。
顎に指をあてて考える仕草は悔しいけど、カワイイです。
カワイイ、カワイイけど……レミオロッコ、騙され耐性ゼロだわ。
これ、私がこれから気を付けてあげないと……。
「うん。送還してないもの。フィナンシェは送還したんじゃなくて、コーギーモードさせただけ。ちょうど馬車を止めるのに草を腰辺りまで伸ばしてたから利用したのよ」
「ま、また騙され……」
もう、疲れたわ……スルーしておきましょう。
ジト目で私が見つめていると、レミオロッコも目を逸らしつつ、話を先に進めてくれました。
「えっと、でも、副ギルド長たちはどうやったの? 何か、突然気を失ったような?」
「あれは寝てるだけよ。覚えてない? 私の能力?」
一つ、羊の数を数える相手を任意に眠らせる能力。
「あぁぁ!! あの意味不明で迷惑な能力!?」
し、失礼ね……意味不明で迷惑とは何よ。私もちょっと思ってたけど。
「あの能力、ずっと切ってたんだけど、それを私とレミオロッコを除いて有効にした上で、羊を数えるように誘導したのよ」
もし、上手く行かなかったら、隠れさせたコーギーモードで倒して貰うつもりだったのだけど、その場合、盗賊風の男たちに同時にかかられると手加減とかできなくなっちゃうからね。
上手く行って良かったわ。
間接的にとは言え、ちょっと人を殺すのは避けたいもの。
まぁ最悪、副ギルド長がレミオロッコを解放してくれなかった場合は、フィナンシェがいなければ油断するでしょうし、その場合はわざと捕まってもいいから、同じように羊を数えさせるつもりでした。
副ギルド長が、あっさりと私の言葉を信じてレミオロッコを解放してくれたのは意外だったけど、案外ケルベロスがいなくなったこの隙に逃げたかったのかもしれないわね。
怖いのを隠すのが上手いだけで本当は凄く怖かったとか?
もしそうならいい気味なのですけどね~。
「さ、さすがキュッテね。口ではやっぱりあなたに勝てないわけよね」
「そこで変な納得の仕方しないでよ……。それよりも、レミオロッコ。本当に無事で良かったわ……」
「うん……ありがと。ほんとにありがと。キュッテ!」
私たちは、お互いの無事を確かめるように、もう一度、抱きしめ合ったのでした。
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