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【SS:レミオロッコのひとりごと】
私の名前はレミオロッコ。
種族はドワーフの一二歳の女の子。
半年前までは親戚の叔父さんに仕事を紹介されてはダメにしてを繰り返し、自分が情けなくて、それでイライラして……の悪循環の中、藻掻き苦しんでいました。
しかも、元々の極度の人見知りとイライラが重なって、いつの間にかつい『恫喝』しちゃうような変な癖までついて、もうそこからは目も当てられない状況になっていました。
そんな苦しい日常から救い出してくれたのが、私よりも二歳年下の一〇歳の女の子。
キュッテはとても変わっています。
どれぐらい変わっているのかと言うと、物凄く変わっています。
キュッテに言おうものなら口撃が凄そうなので、本人には言わないですが。
でも……キュッテは私の能力を凄いと認めてくれた。
いつもいつも、私が何かを創り出すたびに大喜びで、手放しで喜んでくれた。
私の能力は『創作』というモノづくりのスキル。
まだこの世に存在しない、未知のモノを作る時に限って、大きな力を発揮するスキルです。
だけど……この世に存在しないって何?
たいがいの必要な物は、既に誰かが考えた何かが存在しています。
ちょっとしたモノなら、既存のモノを少し改造するような形で、この能力を使って創り出す事は出来ました。
でも、奉公にいった先で求められるのは、そこの工房で既に作って売っているものの量産作業です。
新しい物の開発なんて、何年もそこで修行を積んで、実績を積んで、周りに認められた人だけに許されるので、新しい物を作らせて下さいと言ったところで、聞き入れて貰えるはずもなかった。
そんな風に、少し前までの自分の境遇を思い出していると、
「レミオロッコ~、ねぇねぇ! こういうの何とか作れないかしら? と言うか作って! 今すぐ作って!」
キュッテが本当に楽しそうに話しかけてきました。
「相変わらず、強引ね……」
「いいから作ってよ~。これこれ! 凄くカワイイでしょ? これだけカワイイと、もう作るしかないでしょ!?」
前のめりになって私に見せてきた紙には、見たこともないようなデザインの絵が描かれていました。
相変わらず絵がメルヘンチックね。
街でも絵は普通に額に入れて飾られていたりするし、一般の人でも手が出せる程度の値段で売られています。
絵を描くことに関するスキルを持っている人が沢山いるから、普通に目にする機会が多いです。
だけど、キュッテの描く絵は、ちょっと普通とは違います。
どう表現したら良いかわらないから、私はメルヘンチックって言っているけど、見たものをそのまま描くのではなく、そこに想像を加えて、大きく変化させて描くものだから、どれも見るのが初めての絵ばかり。
最初は本当に驚いたわ。
「これは……もしかしてケルベロスモードちゃん?」
「そうよ! カワイイでしょ!」
そこに描かれていたのは、二つ頭の巨大な魔物、ケルベロス。
フィナンシェちゃんなのは間違いないと思うんだけど……ほんとにカワイイ……。
「相変わらずキュッテの絵って、凄いわね。あんなケルベロスモードのフィナンシェちゃんまで、こんな可愛くしてしまうなんて……」
そこに描かれていたフィナンシェちゃんは、まるでコーギーモードの時のフィナンシェちゃんのように丸っこい体系をしていて、三頭身ぐらいになっていました。
その上、恐ろしいはずの二つの顔に、つぶらな瞳やもふもふ感のアップした毛。はねた頭の毛なども良いアクセントになっていて、とても可愛らしく描かれていました。
「カワイイは当たり前だからいいのよ! それよりこれ! 今度こそ本物のぬいぐるみにしたいの!」
今、アレン商会に買い取って貰っているのは、フェルトマスコットと言って、似ているけど『ぬいぐるみ』とは違うと聞いてます。
でも、それがどういったモノなのかは、あまり詳しく聞いてません。
羊毛を中に綿としていれて、布で覆って洋服のように針と糸で縫っていく人形だという話は聞いたけど、それだけだです。
だから、いきなり『ぬいぐるみ』を作ると言われても、何をすれば良いのか、まったくわかりませんでした。
こういう興奮してテンションが高い時のキュッテは、いろいろ言葉が足りてなくて困ります。
「……で、作るのはいいんだけど、私はまず何を作れば良いの?」
また何か道具づくりから始めるのかな?
でも、布と糸で縫って作る人形ってどんな感じになるんだろう?
そんな事を想像しながら、そう尋ねた時でした。
「あ……来た! キュッテ、来たよ!!」
私の頭の中に様々な情報が一気に流れ込んできました。
まずは流れ込んできたのは完成した時のイメージ。
布でくるまれたフワフワのお人形さん。
そして、それを作るために必要な材料。素材。道具。
なにが必要で、その材料や道具をどうやって使い、どのような工程で作っていけば、完成するのか。
いつもスキル『創作』の能力が発動する瞬間は、気分が高揚します。
面白そう! 作ってみたい!!
私の能力の厄介な制約の一つに、自分が本当に興味を持って、面白そうと思わなければ発動しないというものがあります。
でも、いつもキュッテの提案するものは、どれもなんだかワクワクドキドキして……。
「わっ♪ レミオロッコ! もうイメージ降りてきたのね!! 凄いじゃない!!」
だから、これからも私は、キュッテと一緒に色々なモノを作り続けるでしょう。
「ふ、ふ、ふ♪ これでまたこの世界のカワイイ普及計画が一歩前進するわよ!!」
う、うん。その「カワイイ普及計画」って言うのは、よくわからないけど……。
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