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【第46話:お昼寝】
ぽかぽかとした日差しが、私の身体を暖め、心地良い眠りへと誘う。
ふかふかの牧草が極上のベッドのようで、いつまでも寝ていたい衝動にかられていると、ゆさゆさと身体を揺すられて意識が呼び戻されました。
「……ッテ、キュッテ! そろそろ起きて!」
私の名前はキュッテ。
牧場で羊飼いをしている一〇歳の普通の女の子。
まぁ、ちょっとこことは違う世界の前世の記憶を持っていたり、ちょっとギフトとして授かった酪農系スキル『牧羊』が異常にランクアップしていたり、ちょっと飼っている牧羊犬が前世では『地獄の番犬』、こちらの世界では『死を司る業火の魔獣』などと呼ばれているケルベロスだったり、ちょっと飼っている羊にピンク色の子達がいたり、ちょっと牧場に地下倉庫があったりするけれど、いたって普通の女の子よ。
うん……異論は認めるけど、聞く耳は持たないわ。
「ん~……もうちょっと……」
「いつの間にかいないと思ったら、こんなところで昼寝してるし、何寝ぼけてるのよ! 今日は街まで行く日なんだから、ちゃんと起きて!」
そして、今私を起こそうとしているこの子はレミオロッコ。
私より二つ年上の一二歳の女の子。
レミオロッコは少し幼く見えるので、傍から見ると、私と同じか年下に見えるんじゃないかしら?
それは、彼女の種族特性によるもの。
レミオロッコは種族が人間ではなく、ドワーフだから。
ちなみに私と違ってレミオロッコは普通じゃないわ。
だって、モノづくり最強のスキル『創作』を持っているんだもの。
本人はあまり自分のスキル『創作』を良くは思ってなかったみたいだけれど、他の誰が何と言おうと、私は『創作』スキルはモノづくり最強のスキルだと思っています。
「レミオロッコは最強だから!」
あ、つい心の声が口に出てしまったわ。
「え!? な、なによいきなり!? なんで私が最強なのよ!? 私、か弱い女の子なんだから!」
「えぇ~、力すっごい強いし、か弱くは……」
レミオロッコは見た目は幼いけれど、種族がドワーフだけあって、力は物凄く強いです。
「ぅ……人がちょっと気にしてる事を……。もう! そんな事はいいから、早く起きて!」
せっかく気持ちよく寝ていたのだけれど、私はしぶしぶ起き上がると、服に着いた草を払って伸びをしました。
天気の良い日に、こうして牧場でする昼寝は最高だわ。まだ朝だけど。
「なんだか一人慌てているのが馬鹿らしくなるわね……」
「だって、ケルベロスモードに乗って行けば、すぐじゃない?」
フィナンシェに初めて乗った時には、街の近くの街道に出るまで一時間ほどかかったのだけど、今ではスピードもあがり、二〇分ほどで街道に出る事が出来ます。
だから、歩く時間を入れても四〇分ほどで街に着くので、そこまで急ぐ必要はないと思うのだけれど……?
「やっぱり忘れているのね……今日はアレン商会で取り引きした後、商業ギルドに行くって言ってたじゃない」
そうだったわ。
今日はアレン様にご飯をご馳走に……じゃなくて、アレン商会で取引をしたあとで、商業ギルドに行く事にしたんでした。
「……そうだったわね。あんまり気乗りはしないから、記憶からあやうく消去するところだったわ」
副ギルド長の一件があったので、商業ギルドとは少しギクシャクしているのよね。
だから、商業ギルドに行くのはあまり気乗りしないのだけど、でも、今日はどうしても商業ギルドに頼む必要のある相談ごとがあるのです。
「気持ちはわかるけど、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? 羊のフェルトマスコット、アレン様に増産のお願いされてるんだから、人を増やさないと」
一見言ってる事は正論に聞こえるけど……人が中々雇えない原因はレミオロッコにもあるんだからね。
「私と気の合う人にしてよって、何度も何度も言ってくるの誰かしらね……」
極度の人見知りは未だに直ってないから、レミオロッコでも普通に話せそうな人を見つけないといけないのよね。
ただまぁ、レミオロッコのことを抜きにしても、ここは街から通える距離にないので、住み込みで働いてくれる人を探さないといけない。
そうなると中々良い人が見つからないので、結局商業ギルドにお願いして斡旋してもらわないと難しいでしょう。
それに加えて、カワイイ美少女二人で管理している上に、色々と秘密の多い牧場だから、信用のおける人じゃないといけないから、なかなかすぐには見つから無さそう……。
あ、普通の牧場ですけど何か?
そんな事を考えていると、うちのカワイイ牧羊犬が駆け寄ってきました。
「「がぅ♪」」
レミオロッコの足元で可愛らしい鳴き声を発したのは、見た目がまんまコーギーのような牧羊犬、フィナンシェです。
あるかないかもわからないような、短くまん丸な尻尾がとてもカワイイ。
ちなみにコーギーモードの時は頭は一つなのだけど、何故か鳴き声が二匹分するの。きっと本来の姿が二つの頭を持つケルベロスという魔物だからだと思うのだけれど……私もどうしてなのかまではわからないわ。
「フィナンシェも来てくれたし、仕方ないから向かいましょうか。じゃぁ、フィナンシェ、ケルベロスモードよ!」
私の言葉と同時に、足元にいたちいさなコーギーモードを光が包み込み……。
「うわぁぁぁ!? どこでケルベロスモードにしてるのよ!?」
レミオロッコを吹き飛ばしながら、うちの家をも上回る大きさへと姿を変えていきました。
「えっと……そういう事もあるわよ……」
「何ひとごとみたいに言ってるのよ!? 普段しっかりしてるのに、ほんとにちょいちょいやらかすわよね!? あぁん!?」
「さすが親友。わざとやった時とうっかりやった時の違いがわかるね」
「褒められても嬉しくないからね! その前にどっちもやめなさいよ!」
その後、ちょっと色々お小言をレミオロッコから貰ってから、ここから一番近い街『地方都市クーヘン』へと向けて、出発したのでした。
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