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【第6話:短い尻尾】
「迂闊だったわ……送還がまさかホームとして設定した場所に送る能力だったなんて……」
一つ、牧羊犬の住処を指定する能力。
どうやらこれの初期位置が、主人である私の家になっていたようなのよね……。
私はフィナンシェの頭の上に乗せて貰い、屋根の上にあがると、余っていた板を打ちつけて応急処置をしていきます。
こういう作業は嫌いじゃないけど、前世では屋根を直すどころかDIYもしたことないですし、見るからに板が歪んでいる気がします……。
この季節はあまり雨は降らないので大丈夫だとは思うけど、近いうちに街に行ってちゃんと直して貰わないといけないわね。
私の不注意でいらない出費が……。
「しかし、何か凄く視線を感じるわね」
今は羊たちをまた放牧して牧草を食べさせているのですが、なんだか羊たちに凄く不思議そうに見られています。
最初はケルベロスのフィナンシェの巨体が気になるのかと思っていたのだけど、どうやら私の方を見ているようです。
あっ、これのせいか……。
一つ、羊たちに好かれる能力。
「ふふふ。でも、これでもふもふし放題なのでは……ふふふ、ふふふふふふ……」
おっと、思わず妄想の世界に入り込んでしまっていました。
「良し! これで終わったわ! フィナンシェ~、降ろして~!」
「「がう~」」
あれだけ怖かったケルベロスだけど、こうして従順になると、なんだか可愛く思えてきます。
「さて……何か凄く遠回りした気がするけど、続きをしましょうか」
さっきは一つ目の能力、名前を付けて、召喚と送還を確かめたところで頓挫してしまいましたから、もう一つの能力に期待です。
だって、結局送還先は異空間でもなんでもなくて、私の家だったのだから、食費が浮くどころか、屋根の修理代で更に家計に大ダメージを与えてしまっています……。
ちなみに、ホーム設定は厩舎の横の空き地にしておきました。
もし、今から試す能力が上手く行けば厩舎の中か、また家に変更するつもりだけど、とりあえずはうっかりまた送還してしまっても大丈夫なようにね。
あらためて……今から試すのは次のもの。
一つ、牧羊犬の容姿を自由に変更できる能力。
「これで、さいっこうにカワイイ牧羊犬に……ではなくて、これで大きさもぐっと小さく出来るなら、食費も節約できるはず! ふふふ。ふふふふふふ♪」
まずは頭の中で変更後のイメージを固めていきます。
大きさは普通の牧羊犬ぐらいで良いかしら?
いいえ、もうちょっと小さい方がカワイイわね!
でも、小さくなっても容姿そのままだとちょっと顔が怖いし……。
どうせならやっぱりカワイイ容姿にしてあげたいわよね?
実は前世ではペットの飼育禁止のマンションで暮らしていたから、犬を飼うのが夢だったの。
その時、ずっと飼いたかった犬種が……。
「フィナンシェ! いくわよ!」
私がイメージを固めた瞬間、光が溢れ、フィナンシェの姿を覆うように包み込んでいきます。
そして、その光が収束していくと、その大きさは子羊よりも小さくなっていき、やがてそこには……。
「きゃ~♪ か~わ~い~い~♪」
前世でずっと飼いたかった犬種。SNSで話題のその犬種の写真集まで買い集めていた『コーギー』そのものの姿が!
「「がぅ♪」」
なぜか鳴き声は二重で聞こえるけど……頭は一つになっています。
どういう仕組みなのかしら?
「でも、カワイイから問題ないわ!」
つぶらな瞳に、少し短い足。
丸まった超短い尻尾が、私のハートを鷲掴みにします!
「うん! やっぱりカワイイ!!」
どうやらこの世界のスキルは、実際に能力を使用する事で、更にその詳細が把握できるようなのですが、この容姿の変更によって食費を浮かす作戦も問題なさそうです。
「屋根の修理代は痛いけど、上手くいって良かったわ♪」
一度、牧羊犬として従えたのに、どこかに捨ててくるなんて私にはできません。
これがダメでも必死に稼いで食べさせるつもりでしたが、上手くいって本当に良かったです。
「まぁそもそも、ケルベロスをどこかに捨ててきたりしたら、被害がとんでもないことになるでしょうけど……」
とにかくこれで何とかなりそうです。
◆
かなり遅くなったけど、羊飼いとしてのいつもの仕事を終え、ようやく家に帰ってきました。
「つ、疲れたわ……私、一〇歳の身体でよくこんなの毎日繰り返してたわね……」
前世の記憶が戻ったから思ってしまいます。
この世界での今までの私『キュッテ』が、毎日当たり前にこなしていた仕事がとても大変なものだと。
だって、厩舎の掃除だけでも物凄い重労働なのよ?
他にも、自分が飲む分のヤギミルクと、チーズを作るための羊のミルクを絞ったり、一〇歳が一人でこなす仕事量じゃないわ。
ただ、この世界の人間は前世の人間よりもかなり身体能力が高いようなので、その点はかなり楽なんだけどね。
「でも、せっかく『頭脳は大人!』になったんだから、もう少し生活を改善していきたいわ」
私は外でお風呂のかまどに薪をくべながら、
「まずは、もっと楽にお風呂に入れるようにしたいわ……」
そう言って、一人、せっせとお湯を沸かすのでした。
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